宵の明星

第5話 全世界ギルド"水面の月華" 前編

 4月1日。2週間に及ぶメンテナンス期間が明け、新世界が全世界ver.2として生まれ変わった。

 新世界リリース後引退したプレイヤーも復帰するなどして、その再スタートは大きな成功を納めていた。


 しかし、何も変わらないというわけでもない。

 互換性もあり、ほとんど変わらないのだが、それでも一部プレイヤーたちには物足りない。


 AllWorldOnlineにて、ギルド"宵の明星"解散後に開設された5つのギルド。

 全世界ver.2として再スタートをきり、復活を大いに期待されたギルドたちであり、全世界時代にギルドハウスがあった場所に集まるプレイヤーはいたが、ギルドが復活するどころか、そこにマスターたちが現れることもなかった。




「ノワール、ありがと。戻ってきていいよ」

 ナインスターの面々は、それぞれの元ギルドハウス前の状況を黒魔法使いの使い魔、黒猫ノワールの目を借りて見ていた。

「すごかったね」

 サポーターの少女、アリアは感嘆の声をもらす。

「五の星のギルドハウス前で麻雀やってたのはおもしろかったな」

 Kanameは一番最初に見たはずの麻雀が衝撃だったようで、楽しそうにマオと話していた。


 唯一ギルドの特徴ではなく創設者たちの趣味から通称が作られた"五の星"。

 最初はナインスターのチームサポーターが創設したことから、サポーターギルドだとか日和ギルドと呼ばれていたのだが、ギルドハウスで麻雀をしている幹部が有名になり、数多あった呼び名の中から日和ひよりギルドや平和へいわギルドに統一されていき、誰が読んだか平和を平和ピンフと読んだものだから、幹部3人をドラに例える者が現れ、徐々に変化していった結果、ドラ3平和ピンフが通称になってしまったのだ。

 それは割と有名な話で、Kanameも話は聞いていたのだが、実際にギルドと麻雀が密接に結びついているというのがそこそこツボにはまっていた。



「おーい、準備できたぜ!」

 ノアの声に、アリアは勢いよく立ち上がる。

「さぁ、作戦会議といきますか!」



 リニューアルして3日間。それぞれが他者に見つからないように注意しながらこのAllWorldフィールドを駆けた。

 その3日間の情報収集の成果をそれぞれが語った。

「さて、情報交換はこんなところか」

 マオが頷くのを見てKanameは双子の賢者へと目を向けた。

「それで?これから俺たちはどうする?」

 Kanameの問いに答えたのは妹のアリスの方だった。

「やはり、あのメッセージのことを考えると私たちが動くしかないでしょう」


 ───あのメッセージ。

 それは、NewWorldOnline内のAllWorldのフィールドに初めて入った際に届いたMizukiからと思われる最新のメッセージのことだった。

 どのプレイヤーにも等しくAllWorldの世界設定や楽しみ方についてのメッセージボードが表示されるのだが、そのメッセージを閉じた時にMizukiからのメッセージを受信した。


 件名:


 流れるのは終わり

 私を見つけて


 待ってる


 記憶を辿って

 見つけ出して


 私は探せない


 信じてるから

 記憶ga*Περιορί;στε_

 』

 読み終わってメッセージを閉じると、受信の記録はなかった。当然、メッセージも残っていない。


 最後の一行が文字化けのようになっていて読めなかったが、『見つけて』というのはつまり、メッセージを見たこちらから探すしかないということだろう、というのは、その場にいる全員の共通見解だった。

「まず、あのギルドの噂を確かめるべきじゃないかな」

 アリアの言葉にある一人を除いて全員がうなずく。

「あぁ、水星の月影だったか??」

 ノアの言葉に、ノア以外の全員がノアを見た。

「"水面の月華"だよ」

 シャルルの訂正にノアは「そうそう、それ」と一人納得する。

「こんなんでサポーターとしては優秀なんだから納得いかないわ」

 クロウの言葉にアリアは苦笑いを浮かべるしかなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誓いを残して貴女は消えた—SAIKAI— 如月李緒 @empty_moon556

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ