第4話 AllWorld in NewWorldOnline

 NewWorldOnline1周年。

 ナインスターの消息はつかめなくなっていた。

 プレイはしている。しかし、AllWorldOnline時代のギルドメンバーとしか接触をしていないらしく、リリース後しばらく待ち望まれていたNewWorldOnline内でのギルド立ち上げもされることはなかった。


 プレイ自体は続いていることもあり、AllWorldOnlineの発表次第で今後を決めるのではないかともっぱらの噂になっていた。


 件名:AllWorldOnlineとNewWorldOnlineの関係について


 皆様、お待たせいたしました。


 当機構内での議論の末、NewWorldOnlineをAllWorldOnlineのアップデート版と改めて位置づけ、NewWorldOnline内でもAllWorldOnline同様のサービスを提供させていただくことに決定いたしました。


 つきましては、互換性等の整備のために1年間時間を頂きます。


 2周年記念大型アップデートとしてNewWorldOnline内でのAllWorldOnlineサービス、”AllWorld in NewWorldOnline”を計画しておりますので、お待ちください。


 アップデートは大型なものになるため、3月16日からサービス提供を一時停止し、4月1日0時0分にサービス提供を再開いたします。


 また日程が近づきましたら改めて連絡させていただきます。


 世界管理機構

 』



 世界管理機構からのメッセージをナインスターの面々は同一フィールド内で確認していた。

 と言っても、8人しかいないのだが、残りの一人はすでに引退しており現役はこの8人のみだ。

「本当にまた会えるなら帰ってくるよ。でも、今はここにいたくない。ここにいたらMizukiさんが本当は最初から存在していなかったんじゃないかって錯覚しそうになる。信じそうになる。Mizukiさんがいないという現実を受け入れて前へ進むなんてありえない。だから、ごめん」

 Mizuki消失から1年が経つ前に彼は姿を消し、その瞬間からドラ3平和はドラドラ平和へと変わってしまった。


「あと2年、だね」

 リ・マオは世界管理機構からのメッセージを閉じ、空を見上げた。

「マオ、どう思う?」

 後ろから声をかけたのは黒騎士Kanameだった。

「たぶん、ここまではMizukiさんの計画通り進んでいると思う」

「計画通り、か。あの人なら、アイツが脱落するのもわかっていたかな」

 Kanameの言葉に、マオは困ったような笑顔を浮かべた。

 アイツ―――2年前に姿を消したMizukiを一番愛していた男、ヨル。

「……きっと、五分五分だったんじゃないかな」

 そういったマオの視線はいつの間にか、湖の中心にそびえる大樹のふもとに座る兄妹へと注がれていた。それに気づいたKanameはボソッとつぶやく。

「そう考えると、よくこんなに残ったよな」


「シャル兄さま、5年って期間、どう思いますか?」

 大樹のふもとの兄妹は、水面に写る月を見つめていた。

 妹、アリスの言葉に大きく息を吐くと、シャルルは言葉を紡いだ。

「この3年、色々変わった。現実的ではない……と思う」

 アリスはその言葉に目を伏せ、兄の言葉を受け入れる。

「やっぱり「でも」」

 そうですよねと続くはずだったアリスの言葉をシャルルは遮った。反射的に兄の顔を見る。

 そこにあったのは期待のこもった目で空を見上げる兄の顔だった。

「AllWorldが帰ってくる。Mizukiさん消失から4年、約束の日まで1年の、そのタイミングで」

 そっと目を閉じた兄が小さく「だから、信じていたい」と言ったのをアリスは聞き逃さず、「そうですね」と兄の手に自分の手を重ねた。


「クロウ、Mizuki様は大丈夫でしょうか?」

「スノウ、信じて待つんでしょ?」

 仲良し二人の魔法使い。二人はMizukiを慕っていた。

「そう、ですが……」

 スノウの不安を打ち消すように、クロウは不敵に笑う。

「Mizuki様なら大丈夫にきまってる。うちらが信じなくて誰が信じるんだ」

 立ち上がったクロウを見上げるスノウ。そこにサポーターの少女が声をかける。

「クロさんシロさん、皆さんを集めていただけますか?」

「おーけー、呼んでくる。ほら、スノウ、行くよ」

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