転校生12p
そんな方美の様子をバックミラー越しに見ていた三谷野は苦笑いをして、「やれやれ、方美は予想通りの落ちこみようだな」と呟き、ハンドル操作を片手運転に切り替え、空いた手で助手席へ置いてある茶色い小さな紙袋へと手を伸ばして、それを掴んで助手席に見える様に翳し、司に受け取る様にと言う。
「何だ」
司は怪訝な顔で受け取った紙袋を見た。
その紙袋は林檎一つが入る様なサイズで、クチャクチャに皺が寄っていた。
「そいつは眠り姫からのプレゼントだ。中身は知らないよ。俺が家を出る前に司に渡すように頼まれたのさ。車に乗り込む直前にそいつを渡されたんで、そのまま持って来ちまった。もしも司と方美に会う前に自分が眠ってしまったら代わりに俺から司に渡すようにと頼まれたんだ」
「なるほど、眠り姫は一度眠るとなかなか目が覚めないからな」
ねじれた紙袋の口を開けながら司が言うと、三谷野は愉快そうに「俺たちのお姫様はセオリー通りのお姫様って訳だ」と冗談を口にして、ミニのアクセルを踏み込んだ。
ミニはスピードを上げてカーブを曲がる。
「怖いわ。カーブでスピードを出さないで下さい!」
声を荒げる方美に、三谷野は「大したスピードは出しちゃいないぜ。方美は意外に怖がりなんだな」と笑いながら言うも、少しスピードを落とした。
三谷野という男は良く笑う。
その笑い方は、他人をからかう様でいて、褒めている様でいて、そして見透かしている様でいて、おどけて、ふざけている様で、しごく真面目な様でもある。
そんな何とも言えない風に笑う三谷野を「お前はチェシャ―猫に似ているね」と言って、
からかうモノは今、不思議の国ならぬ、眠りの国の中だ。
カノジョが眠る時、事の全ての決定権は司にある。
Quinn Bee Syndrome(クインビー・シンドローム) 円間 @tomoko4649
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