転校生11p

「礼を期待するなど、人間らしいなぁ、三谷野。学費を出すのはお前でも、その金を作っているのは僕らだろう」

「司、それは良く分かっているよ、良く、ね。家にお姫様を置いてきているんだ、言われなくても直ぐに車を出すさ」

 三谷野は、そう言いながら、既にエンジンの掛かっているミニを滑らかなハンドルさばきで動かす。

 駐車場から出たミニはスピードを出している割には安全に道路を走る。

 目的地である彼らの自宅へ向かって、ミニは奇跡的にも信号につかまる事もなく、順調に進んだ。

「まず、学校の話と弁当の感想と、それから感謝の言葉……だったか、三谷野? 学校は普通、計画はこれからだ。弁当も普通。そして感謝だ、ありがとう、三谷野」

 司は窓から流れる街並みを、ぼんやり見ながら囁いた。

 自分へかけられたのであろう、司の皮肉交じりの言葉に三谷野は、ハハッと笑う。

「計画も弁当の出来栄えもこれから、という訳だ。……所で二人とも、折角、俺を迎えにまでよこしたっていうのに残念なお知らせだ。君らをスキャットウォークで待っている間にお姫様から連絡が入ってね、お姫様は君らを待ちきれ無かったみたいで、もう眠るってさ」

「何ですって! そんな……」

 三谷野の知らせを聞いた方美は驚いて、そして取り乱した。

 司も驚いた表情を少し見せたが、直ぐに落ち着き払った顔に変わる。

「方美、残念だが仕方ない。あれは、オークションから今日、帰ったばかりだ、きっと疲れていたのだろうさ」

 司に言われて、方美は、がっかりした表情のまま、頷く。

「そう……よね、きっと疲れていらっしゃるんだわ、仕方ないわよね。ねぇ、司、寝顔を見ても構わないでしょうか?」

 隣に座る司を上目使いに見て方美は言う。

 かまわない、と司が答えると方美は少しだけ微笑んだが、まだ浮かない顔のままだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る