転校生10p

 駐車場兼バスケットコートには数台の車が止められていて、その中にあるペパーミントグリーンのミニからクラクションが鳴った。

 クラクションに気付いた司と方美はミニの方を見る。

 バスケットのゴールの真下の駐車スペースに留められたミニの開いた窓から、二人に向かって手招きをする手がゆらゆらと揺れている。

 司と方美は、その手に吸い寄せられる様にミニへと近づく。

 このミニが司と方美を迎えに来ている三谷野の車だった。

 司と方美はミニの後部座席側のドアを開けて、二人そろって座席に座る。

 司はシートベルトを締めながら、運転席のミニの持ち主の男へ静かに話しかけた。

「車を止める場所を変更するなら、お前の方から連絡をしてしかるべきじゃないか? なぁ、三谷野?」

「次からはそうする事にするよ」

 そう答えてこの三谷野という男は後部座席へ振り返り、司にニヤリと笑って見せた。

 三谷野は、歳は三十代後半ほど。

 顔色が少しばかり優れない事を除けば、十分な良い男である。

 三谷野は少々猫背ではあるが身長も高く、おまけにスーツの趣味も良い。

「司、方美、今日の学校はどうだった? 今日持たせた弁当は口に合ったかい?」

「三谷野、口を動かさずに車を動かせよ。話しは移動しながらだ」

「三谷野さん、早く車を出して下さい!」

「やれやれ、二人とも、せっかちだな。俺は、わざわざこうやって君達の為に車を出しているんだぜ。おまけに、君達の学校の学費まで出してやっている。感謝の言葉も聞かずに車と金を出すなんてまともな大人のすることじゃないぜ?」

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