エピローグ

 四月。

 わたしは真新しい高校の制服に身を包んでいた。

 黒に近い紺のブレザーにチェックのスカート。胸元には真っ赤なネクタイをした。

「やっぱり、娘が母校に入るのは嬉しいよ」

「うん。そうだよね!」

 母さんがそう呟く。

 今日は都立神村北高校の入学式だ。





 校門を抜けると、これから三年間過ごす校舎が見えてきた。

 母さんはそのまま体育館に向かうらしい。

「新入生の方はこちらです!」

 クラス表が配られて、これからクラスへと向かう。


 わたしは一年三組だった。

 後ろのドアからその教室に入ると、廊下側から出席番号順に並んでいた。

 真ん中の列で、その前の男子が気になった。

 どこかで、見たことがある。

「え? うそ……マジで?」

 名簿には高月たかつき悠里ゆうりと書かれてある。

 それは悠里の母方の名字だ。そして、高校生になったらその名字を名乗るって……聞いていて、しかも同じ悠里という名前なんだ。

 ――そんな偶然あるわけがない。

 そう考えてしまう。

 わたしは期待と不安だったけど、恐る恐る彼の肩を叩いた。

「ん? どうした……小夜さよ

 言いながら振り向いたけど、とてもびっくりしたような嬉しそうな表情を浮かべていた。

 メガネをしていないけど、悠里だった。

 びっくりした。

 彼が同じ高校にいるとは思ってもない。

「何で、いるの? え? コンタクトにした?」

「俺はお前と一緒の高校に行きたくて、あとうん。コンタクトにした」

「高校デビューしたんの? イケメン」

「違うから! 褒めてくれるなら、嬉しいよ。あと……小夜、よろしくな」

 照れ臭そうに笑っている。

「あ、悠里。呼ぶの、名字じゃなくていいよね?」

「あぁ。もういいよ。悠里で」

 照れ隠しのようにぶっきらぼうに話した。

 悠里となら……これからの高校生活が楽しくなりそうだった。

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桜の咲く頃に 須川  庚 @akatuki12

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