とある男子大学生の懊悩 序
「お、またギフトをもらった。やったぜ!」
マンションの自室で、僕はスマホを見ながら、片手でガッツポーズしていた。
スマホに表示されているのは、小説投稿サイト「カクヨム」のマイページ。
その通知欄に、僕を支援してくれているサポーターの読者からギフトが届いた旨、通知があったのだ。
僕、
だが、同時に小説家としても活動しており、一応、何度か書籍化も経験している。
大学生でプロの小説家なんて、世間一般からすると立派な肩書に映るらしく、知り合いからは「すごーい。昔から小説が好きだったんだねー」と言われたりもするが、実は僕が小説執筆を始めたのは、高校三年生の時。
とあるコンテストで優勝するため、思い立って筆を取ったのが始まりで、執筆歴はまだ二年にも満たない。
一応、そのコンテストで大賞を取ったことがきっかけで、後に出版社からお声がかかり、作家としての活動をスタートさせることになったのだが。
これだけだと、天才の自慢話に聞こえるかもしれないが、別に僕は、自分にそれほど大した文才があるとは思っちゃいない。
昨今はカクヨムを始めとして、小説を発表する媒体が様々あるし、文芸賞やコンテストで入賞しなくても、小説家として活動できる方法は多様化してきている。現役高校生や中学生の作家だって、大して珍しくもない時代だ。
実際、僕の幼馴染も中学生の時にはプロデビューを果たしていたし、書籍売り上げの実績だって、僕なんかとは比べ物にならない。
まあ彼女の場合、僕と違って文才も非常に秀でているから、比較するのもおこがましいくらいだけど。
だが、その幼馴染「
そう、あの事件……忌まわしき「カクモム事件」こそが、全ての発端だった。
今や、飛ぶトリを落とす勢いで小説投稿サイトの
そのカクヨムが約二年前、突如「カクモム」という、
当時のカクモムの混沌っぷりは、思い出すだけで頭が痛くなるほどで、この魔境に世界中の変態たちが大挙して押し寄せて、恐怖の「乳の伏魔殿」が完成されてしまった。
小説投稿サイトとしての形は一応保っていたが、カクモム内では奇々怪々な機能や企画が
このコンテストの優勝賞品に、僕の幼馴染である丹生の「おっぱいを揉むことができる権利」が供されてしまい、全世界の変態たちから幼馴染のおっぱいを守るため、僕は筆を取ってコンテストに参戦した。
そして、迫りくる変態作家たちと文字通りの死闘を繰り広げて、どうにか大賞をかっさらったのだ。
とはいえ、「カクヨム」を「カクモム」に変貌させた謎の組織「
そのため、コンテスト終了後も執拗に僕の命と丹生の乳を狙い続け、一時は本当に危なかった。
が、そこで、丹生の父であり日本陸軍将校でもあった
これにより、
それに伴い、改悪されていた「カクモム」も「カクヨム」へと清浄化され、世界の混乱もどうにか収束。
それから数ヶ月が経って、ようやく、平和な日常が訪れたのだった。
クーデター終結後、危うく娘を変態たちの供犠にされかけた
その一方で、丹生の純潔を変態たちから守った僕に対して、元帥はいたく感謝の意を示し、「直太朗くんになら、安心して娘を任せられる!」と太鼓判を押して、僕と丹生の交際を認めたのだった。
僕は丹生のことをただの幼馴染以上に想っていたし、なんと丹生のほうも、昔から僕のことを好いてくれていたというから、これは本当に嬉しかった。
まあ、確かに変態たちから純潔を守りはしたのだが、交際を認められる前に、実はもう…………いや、これ以上はいけない。下手すると、僕も去刑に処される危険がある。
父親公認とはいえ、節度ある「おつきあい」をしていかないといけないよな、うん。
実際、付き合い始めてからの丹生はかなり積極的で、美人巨乳幼馴染兼恋人の溢れんばかりの魅力と誘惑に、僕は完全に骨抜きにされてしまっている。
が、丹生のほうも、相変わらず小説家としての活動は続けており、今年は新作小説が国内でも有名な「本屋大賞」にノミネートされた他、人気タイトルのドラマ化も決定しており、すでに作家としては大成功を収めている。
「現役美少女女子高生作家」が「現役美少女女子大生作家」にクラスチェンジしただけで、相変わらずの美貌とおっぱいを有しており、世間でもアイドル級の超人気者だ。
一方で僕は、処女作の「幼馴染の天然巨乳美少女が『ブラのサイズがまた大きくなっちゃった~』と部屋に押し入って来て、僕を困惑させてくる」(通称、
大学の学費などは、ある程度自分の稼ぎで
愛する彼女との
だが、落ち込んでばかりもいられない。チャンスは至る所にあるのだから。
現に、カクヨ厶の「ロイヤルティプログラム」によって、書籍化以外にも作家に収益が入るモデルが確立されてきているし、「カクヨムネクスト」や「カクヨムサポーターズパスポート」等の取組みを通して、読者から直接支援を貰えるようにもなっている。
デビュー時からお世話になっている編集さんに声掛けいただき、カクヨムネクストで新連載を持つことができたのは、本当に運が良かった。
今しがた届いたギフトも、カクヨムネクストで僕が連載を開始してから送られてきたものだ。最近はサポーターの数も地味に増えてきてるし、実に喜ばしい。
今日も、朝から自室に
「お。さっきのギフト、メッセージも付いてるじゃん。ありがたいなあ。どれどれ……」
僕は嬉々として、送られてきたギフトに添えられていたサポーターからのメッセージを開いた。
『ぶち殺す。
「……は?」
メッセージを読んだ僕は、ピタリと硬直した。
何これ。ぶち殺すって……アンチコメント?
丹生たんって、丹生のことだよな……。
僕と丹生の関係は、世間的にはオフレコになってるはずなのに……。
ってか、わざわざこんなコメント入れるために、サポーターになったってこと?
突然の悪意あるメッセージに驚く僕の耳に、ピンポーンと、玄関のチャイムが聞こえてきた。
「わ、なんだ。宅配便か?」
慌てて僕は、小走りで玄関へと向かう。
また丹生のやつが、うちのマンション宛てで、勝手に荷物を頼んだのかな?
宅配ボックスでもあればいいんだけど、安い学生マンションだから仕方ないか。
それにしても、あのメッセージ、一体なんなんだよ……。
色々なことが起こって、僕の思考はあちこちに飛んでいた。
なので、ドアののぞき穴を見ることもせず、宅配便だと思い込んで、不用意に玄関を開けてしまった。
それが、大きなミスだった。
「はーい……ムグウッ⁉」
ドアを開けた刹那、外から伸びてきた腕に、素早く口を塞がれる。
僕の口元にあてられたのは、何か白い、布のようなもの。
それをあててきたのは、玄関の外に立っていた人物。
バラクラバ帽のような覆面を顔に被った、全身黒ずくめの、恐らく男性。
一人ではなく、後ろにも同じ格好をした数人の覆面男が立っている。
なんだ、お前ら……?
そう言おうとしたが、急激な眠気に襲われ、僕はあっという間に意識を失ってしまった。
■□■□■□
「……うぅ」
気がつくと、僕はマンションのリビングの床に、横向きで倒れていた。
身を起こそうとしたが、いつの間にか両手足が太い縄で縛られており、立ち上がることができない。
「気がついたようだな、籾山直太朗。いや、『アルプス
自身の小説家としてのペンネームで呼ばれ、僕は顔を向ける。
そこには、先ほど僕に布を当ててきた覆面男たちが立っていた。
「あんたたち……一体、何者だ?」
「我々は、『
「
「
そう言って覆面男が、自身の持つスマホ画面を僕に向けてきた。
そこに写っているのは、見覚えのあるカクヨムのWebページ。
だが、なぜか普段よりも
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