第6話 生きて
「おはよう」
あれから三週間。俺たちの暮らしは戻りつつある。
「あんぁ。おはよう。ほんれ弁当。」
「……あれ?」
四つ……。
「こんれがあんたの分、そのかんわいいのが清良ちゃん、ほんでぇこれがマナ。……こんれはおっちゃんやぁ。卵焼き六つも入れといたぁかんね。」
「おっちゃん喜ぶよ。母ちゃんの卵焼き好物だったもんな」
「んん。ほら、はよ行って!」
マナトは
みんな乗り越えようと必死なんだ。いや、ちょっと違うな。受け入れようとしているのかもしれない。
「みつけた」
外へ出ると清良が鍵を俺に見せた。俺たちは店へと走った。
「マナト!!!」
静まり返っている。
「開けよう」
清良があの箱の鍵穴に差し込んだ。
カチャッ
開いた。
「千晃……見て」
そこには大きな皿が入っていた。
──愛別焼だ……
焼き物のことは詳しくないが直感でわかった。
「この絵……!」
──マナト!?
そこにはイルカと暮らす人間の絵が描かれていた。海にも陸にも、関係なくイルカとともにいる。足のはえたイルカもいる。
「マナト!どこ!?」
清良が店の外へ出た。
「千晃!船がない!」
嫌な予感がした。今日の皆既日食に誰も愛別島へ行けないよう、この町の船は全て陸揚げされているはずだ。
俺たちは漁港へ走った。
「父ちゃん!」
「母ちゃん!」
漁港に着いて俺たちはそれぞれの親を呼んだ。
ずっと気になっていたんだ。俺たちが奇跡的に回復した日、リュウがいなくなった、父ちゃんがいなくなった、清良の母ちゃんがいなくなった。その日にこの町に引っ越してきた。こうなることがわかっていたかのように家も用意してあった。みんなが俺のことを知っていた。おっちゃんがおいおい泣いて俺を抱きしめた。
「愛別島に何があるの!?」
「え!?」
「マナトがいないの!」
「船じゃぁぁ!船を出せぇぇ!」
町長が叫びながら走って来た。
「
「はよせんと!日食が始まってしまうんじゃぁ!」
俺と清良と、清良の父ちゃんと町長はマナトが乗ってきたおっちゃんの船の横に船を泊め、愛別島におりた。清良の父ちゃんが重い口を開いた。
──
俺たちの
大昔この島にたどり着いたイルカたちが人間に姿を変え、ひっそりと暮らしていた。だが、愛別焼に魅せられた人間たちがこの島を乗っ取ろうと入って来た。この島の秘密が外に漏れないよう、皿に絵を残した。
「これが関所……」
「あんぁ」
奥の谷を目指す。
人間に姿を変えた引き換えに、生まれてくる赤ん坊は病気持ちで長く生きられなかった。これに心を痛めた赤ん坊の母親がこの谷に身を投げた。
すると奇跡が起きた。今まで死の淵をさまよっていた赤ん坊がすっかり元気になったんだ。
──それが日食の
「父ちゃん!太陽が隠れる!」
「あぁぁぁ!マナトぉぉぉ!」
「落ち着んけぃ!透!!完全に隠れてから光が漏れるまでの間じゃぁ!どこかにおるわぃ!!」
どういうわけか、皆既日食のときだけは死者を甦らせることができるそうだ。飛び込んだ者の身体に死者の魂が入れ替わり入る。
マナトはきっとどこかでこの
町長は幼いマナトを連れて愛別島から遠く離れて暮らした。だが、マナトが行方不明に。町長はこの島にマナトが来ると確信して町に来た。
「マナトぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
町長の叫びが谷に虚しく響く。
──マナト。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!千晃ぃぃぃぃーーーー!!!!!」
「あんぁぁ!!!ちんあきぃぃぃ!!!やめぇぇぇぇぃ!!!!あぁぁぁぁぁ!!!」
俺は谷に飛び込んだ。
──マナト。マナトは知らなかったんだな。
ゴボォォォォォォ
──海と繋がっていたのか……。
ピィーーーーーー
イルカが来た。
──わかってる。
俺はイルカにしがみついた。
俺たちは深い海の底を目指した。
──お前……リュウだろ。
優しい
海藻にくるまれてマナトが横たわっている。マナトは知らなかったんだ。日食の日に飛び込むんじゃない。
その瞬間に飛び込まないとダメだったんだ。
──俺の夢に出てきていたのもリュウだろ。
グワァン!!!!
別のイルカが猛スピードで近付き、
──おっちゃん……。
俺は砂浜にマナトを引きずり寝かせた。
真っ暗だ。
なぁ、マナト。お前は死んじゃダメなんだ。リュウが……夢に出てきていつも俺に言ってたんだ。
「生きて」
ってな。お。光が漏れだした。そろそろ目を覚ますか。
完
ANCHOR 雲水 @panipanipani
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