肆拾弐


 鳴り響く轟音と揺れ動く城。獅童と少女達はその光景に思わず息を呑んで立ち竦んだ。


「なんだよアレは、馬鹿でかいナマコか」


 それは、城と獅童達を見下げるように悠然と存在していた。黒い影を纏ったようなあやふやな表皮、その姿は一言で例えるならば巨大なミミズにも似ていて、しかし、無数の足を生やし、おそらく口だと思われる大穴には漆黒の闇を縁取るように鋭利な牙が並んでいる。


 獅童は、その巨大な異形に一瞬愕然としたが、自分の右手を見つめて息を吐くと、改めて巨大な異形の頭上でこちらを見据えているドリュファストを視界に収めて睨みつけた。


「レヴィア、単刀直入に聞く“過去の俺”はアレに勝てたか?」


 額に汗をにじませながらも不敵に笑って見せた獅童にレヴィアは微笑んで返した。


「余裕どす」


 笑顔で応えたレヴィアにこわばる表情で、しかし、さらに笑みを深めた獅童は正面に向き直ると再び問いかけた。


「そうか……俺はどうしたらいい?」


「しどうはんは、確かにレグルスはんの生まれ変わり、でも、そないに難しいこと考えんでえぇ、過去は関係あらしまへん、今どうありたいかどす」


「————わかった」


 獅童は多くは語らず、だが、その言葉はレヴィアに対する信頼であふれていた。そして少女達へ背中越しに声をかける。


「カミラ、ルーシー、それからロゼは、そいつらをこの場所から避難させて魔石ってやつの処置を頼む」


「そんな! 獅童様、わたくしも一緒に戦いますわ!!」


「あーしだってまだ戦えるよ!」


「……」


 獅童の言葉に納得がいかない様子で声を上げるカミラとルーシー、ちらりと視線を向ければロゼがその真意を探るようにじっと獅童を見据えていた。


「おまえ達の気持ちはしっかり俺が背負って持っていく、ロゼ、おまえにしか頼めないことだ、やってくれるか?」


「————ふん、死んだら、蘇らせてロゼがもう一回殺してあげるから覚悟することね? あなた達、駄々捏ねてないでいくわよ? ロゼ達の残りの魔力じゃ足手まといになるだけ、わかっているでしょう?」


 獅童の瞳をじっと見据えていたロゼは、つんと踵を返し納得しかねていたカミラとルーシーを強引に黙らせると、意識のない爪牙人達の方へ向かい歩き出した、その去り際ぽつりと背中越しにロゼはこぼした。


「絶対に生きなさい、あなた達全員」


 小さくつぶやかれたその言葉は、しかし、全員の心にしっかりと受け止められていた。そして振り返ることなく巨大な敵を見据えた獅童は、残る少女達へと声をかけた。


「レヴィア、フィナ、レティシア、悪いが俺に付き合ってくれ」


「獅童どの、あなたには感謝だけではお返しできません、この命は獅童どの、そして仲間のために」


 新たな決意を宿した瞳でレティシアは獅童へと頷き返した。続くようにフィナとレヴィアが笑顔で応える。


「当たり前でしょう? あんな奴、あたしが燃やして丸焼きにしてあげるわよ」


「しどうはんのご指名、嬉しいわぁ。ほんなら少し気張りまひょか」


 三人が獅童に並び立ち、絶望とも思える光景に勝利を確信して疑わない余裕の笑みで向き合った。そして、ゆっくりと巨大な異形が獅童達に向かいその頭を近づける。


「おい、犯罪者! てめぇの城をてめぇでぶっ壊してなんのつもりだ? 気でも触れたか?」


 悠然と異形の頭上から睥睨するドリュファストに向かい獅童は声を荒げる。それに対し眉をぴくりと動かしたドリュファストはニヤリと笑みを浮かべて応えた。


「小さい、あまりにも小さいな剣崎獅童? おまえ達の様子をずっと魔法を通して見ていたが、良い余興であったぞ? 余が自ら捻り潰してやろうと思う程度にはな」


「ああそうかい、王様ごっこの次はのぞきか? いい趣味だ」


 獅童は眼光を鋭く光らせながらドリュファストを睨み続ける。しかし、意識は自分の内側に流れる力の根幹に手を伸ばそうとしていた。


「減らず口が、余に取ってはこの世界などゲームでしかないのだ、余は今から手始めにこの国をさら地にして、この世界の国を潰して回ることにしたのだ。使えない駒のボードゲームはもう飽きた」


 ドリュファストは、太々しく笑いながら獅童達を見下していた。万能感に酔いしれ、この世の全てが自分を中心にあるものだと本当に信じ切っている口ぶりであった。


「外道が、てめぇの思い通りになるほど世の中甘くねぇんだよ、何がゲームだ、てめぇは世の中生き抜く力もなくて一番卑怯な方向へ逃げてきた、ただの犯罪者なんだよ」


「この世界では物理的な力が全てだ、剣崎獅童? つまり、一番強い余がこの世界の全て、いわば神!! 貴様というレアなキャラを手に入れて遊んでやろうと放置していたが、もう終わりだ、死ね剣崎獅童」


 ドリュファストは大声を上げてうそぶくと、異形の巨穴のような大口を獅童達へと向けさせそのまま倒れ込むように強襲する。


「ああ、終わりだ、死んで後悔するなよ犯罪者。俺は、自分のこともよくわかってない馬鹿だが、一個だけ確かなことがある、俺は美少女が好きだ、好きで好きで大好きだ!!」


 眼前に迫りくる巨大な異形の怪物に獅童は、獰猛な笑みを浮かべた後で己の欲求を心の底から叫んだ。


「しどー?! こんな時に何言って——敵きてるよ? 鼻血も出てるよ?!」


 予想外の言葉に思わず目をパチパチと激しく瞬たたかせながらフィナが突っ込む、しかし、獅童はさらに続けた。


「そんな美少女達が俺のために命はってんだ、てめぇに支配なんかさせねぇ、こいつらが望むなら、俺は何にだってなってやるさ!!」


 深淵の闇が大口を開けて獅童達を呑み尽くそうと目の前に迫った。あわあわと戸惑うフィナを余所にレヴィアとレティシアは問題ないとばかりに全く動じない。そこへ獅童は、気合いの掛け声と共に白銀の光を纏った拳を大きく振りかざした。


 《叡智の王ソロモン発動:憧憬“獣達の王”:獅子王の剣、発現》


 一閃。白銀の燐光が周囲に舞い踊り、大口を開いた漆黒の闇がずるりと縦に裂けた。同時に巨大な異形はゆらりと体勢を崩し黒い煙のようにその姿を消してゆく。そして驚愕の表情で足場を失ったドリュファストが獅童達の前へと尻餅をつくように落下した。


「な、な、なんだその力は!? 貴様はただ爪牙人を強化するだけではないのかぁ!?」


 慌てふためくドリュファストを鋭く射抜いた獅童の手元には銀の光に覆われた白い両刃の大剣が握られていた。


「さあな、俺にもよくわからんが、とりあえずおまえは終わりだ」


 獅童は大剣の切っ先をドリュファストの顔へと向けて言い放つ、そして哀れな姿を蔑むように少女達三人がドリュファストを囲んだ。


「ふふふ、ククククっ! あはははははははっ!!」


 突如壊れたように高笑いをあげたドリュファストに獅童は眉根を寄せ、フィナが顔をしかめながら言った。


「何こいつ? 追い詰められて頭おかしくなったんじゃないの?」


「フィナはん、油断したらあきまへんえ?」


 そこへ、何かを警戒したようにレヴィアは身構え、レティシアが声をあげる。


「獅童どの! 早く止めを!! こいつは————」


 ドリュファストの様子に困惑した獅童はわずかに反応がおくれ、すかさず槍を出現させたレティシアが狙いをすまして突きを放った。


「たかが一匹潰した程度で、何を勘違いしているのだ? 剣崎獅童」


 瞬間、ドリュファストから禍々しい黒い影が溢れ出し、手をついた地面が深淵の闇に染まった。レティシアの放った槍はドリュファストに届くことなく、黒く染まった地面より這い出た黒い影により防がれた。


 獅童達は一旦その場から後方に飛び退き、歯がみしてその姿を睨みつける。


「余の力はありとあらゆる偶像の具現化召喚、神話に出てくる怪物も、神と崇められるものですら余は作り出せるのだ!! 何度でも、何体でもなァ! 再び出でよ《偶像召喚:地を這う混沌ニャルラトホテプ》」


「——————っ!?」


 深淵の闇より“混沌”が這いずり出す。そしてドリュファストを再び頭上に乗せて巨大な姿を闇より表すのと同じくして、円形の大口に鋭い牙を並べた巨大な異形の化物が三体、城の周囲に出現し、計四体の巨躯に獅童達のいた建物は囲まれた。


「冗談じゃねぇぞ、あの犯罪者野郎っ!? ロゼ達は避難できたかッ?」


 獅童は一瞬視線を背後へと向けた。そこにロゼ達の姿はなく、意識をなくした無数の爪牙人達も忽然と姿を消していた。


「皆さんはロゼどのの固有空間に非難されました! あそこならどこよりも安全でしょう、それよりも獅童どの!!敵の攻撃がきますっ」


 レティシアの叫び声に獅童は注意を戻すと、混沌の化物は巨大な口に黒く禍々しい魔力を収束した。


「貴様らにかけてやる情けも時間も余にはないのでな! 一瞬で消しとべっ」


 魔力を口の中に収束させた混沌の化物は、轟音と共に黒い雷光を獅童達へと向け放った。獅童の視界が黒い閃光に染まる、四体の口から放たれた黒い雷光は一瞬で獅童達のいた場所を焼き尽くし、崩壊させ、跡形もなく消しとばした。


「しどー、平気?」


「フィナ————っヒェ」


 耳元で聞こえた柔らかい少女の声にふと意識を戻した獅童は、全身を包み込む浮遊感と何より少女の華奢な細腕の中に抱き抱えられている状況に怪しげな声を発した。


「ちょっ、動かないでっ! 落ちたら死んじゃうから!?」 


 そこには、炎を思わせる衣に身を包んだフィナの姿があった。実際、透き通った振袖のような長い袖の先はゆらゆらと穏やかだが猛々しい炎が燃えているのだが、何よりかなり攻めた布面積で全体的に踊り子のような衣服へといつの間にか様変わりしていたフィナを目の前に獅童は、とっさに鼻を抑えて視線を激しく泳がせた。


「フィ、フィナ? なんというかその、グッジョブだ!!」


「あんまり見ないでよね!? 変態しどー! あたしだって好きでこんな格好しているわけじゃ、とにかくっ、今はそれどころじゃないの!!」


 ふと視線を真下へ向ければ、巨大な円形の口が上空へと向けられている光景が獅童の視界に飛び込んできた。


「二人ともいちゃついとる暇あらへんえ?」


 水の羽衣のようなものを纏い宙にふわりと浮いていた若干不機嫌そうなレヴィアが横目で獅童とフィナを一瞥した瞬間、真下から漆黒の雷がうねる蛇のように獅童達へ襲い掛かる。


「空を飛ぶなんて人生初だから、振り落とされないようにしっかりつかまってて!! 変なとこ触ったら怒るから!? あと、見るのも禁止!!」


「善処する!!」


「バカっ!」


 漆黒の雷は巨大な顎を開いて獅童達を丸呑みにする蛇のように襲い掛かる。フィナは、慣れないながらも獅童を抱えて空中を右へ左へと舞い、攻撃をかわした。


「奴を打ち倒せば力も消えるでしょう! 獅童どのっ、その役目、私が追わせていただきます!」


 鷲のように大きな翼を広げたレティシアは自由自在に飛び回り、ひらりひらりと優雅にも見える身のこなしで交わしながら、獅童の返事を待つことなくドリュファストへ向かい急降下した。


「レティシアっ!? 一人で突っ込むな————」


 しかし、鋭い眼光を細めて宿敵に向かい一直線に突き進むレティシアの耳に獅童の声が届くことはなく、混沌の怪物の攻撃を掻い潜りドリュファストのもとへ迫った。


「育ての親に反抗するとは、仕置きが必要だな」


「親だとっ?! ふざけるな!! 私のすべてを奪った罪、その命で償え!!」


 瞳孔を開き激昂するレティシアは手にした槍を大きく振りかぶってドリュファストへと投擲するように構えた。


「そこまで戦えるようになったのは誰のおかげか忘れたのか? 周りを良く見るのだな」


 レティシアを取り囲む常闇の巨大な大口は、その小さな存在を全力で消し去ろうと漆黒の雷を一斉に放つ寸前であった。


「構うものか、この槍があなたに届くのならこの命惜しくなどない!」


 自分の死など意に返さないとばかりに、攻撃の体制をとったレティシアは、手にした風の槍を投擲、風の魔力を纏った槍は、凄まじい勢いでドリュファストへと迫る。


「ばかめ」


 ドリュファストがほくそ笑むと同時、勢いよく迫った風の槍は、しかし、突如目の前に出現したもう一体の混沌の化物へと突き刺さり、内部から吹き荒れる暴風により粉々に粉砕するも、ドリュファストへ届くことは無かった。


「————っく、まだ」


 レティシアは、再びその手に風の槍を顕現させようと魔力を集中させるが、レティシアを取り囲んだ四体の大口から漆黒の雷が放たれた。


「————っ」


 レティシアが無念の死を覚悟した瞬間、四体の混沌を押さえ込むように、水の竜が四体、空中よりその姿を表し混沌の化物の首に食らいつき、レティシアから攻撃を逸らした。


「頭に血上りすぎなんとちゃいます? みんなとの約束破ってまで、あないなもんに命捨てる意味あるとは思えまへんな」


 蒼穹の長い髪をなびかせ、青と白二対の尻尾を揺らす巫女服に身を纏ったレヴィアがふわりと宙に浮いたままレティシアの前に降り立った。


「レヴィアどの、申し訳ありません……やつの顔を見たらつい感情が制御できず」


「気持ちはわかるえ? 凄まじいブサイクやもんな?」


「——ぷっ、はは、確かに」


 レティシアはニコリと微笑みながら言い放ったレヴィアの予想外の発言に思わず吹き出してしまい、その表情にわずかな余裕が戻った。


「————死ね《偶像召喚:金剛力士ヴァジュラパーニ》」


 二人の会話が聞こえていたのか、その表情を真っ赤に染め上げ怒りの形相で少女達を睨みつけるドリュファストが何かを口ずさんだ瞬間、突如現れた鬼のような形相の漆黒の巨人が左右から二人を挟み打つように巨大な掌底を放った。


「ったくもー、言ったでしょう? 次はあたしがレティシアを助けるって! あんなブサイクのために死なせたりしないんだから」


「——フィナどの」


 放たれた巨人の掌底は、だが、同様に巨人のような炎の手によって左右で受け止められる。その中心にいるフィナの左右の空間から炎の巨大な腕が出現し二対の漆黒の巨人を押さえ込んでいた。


「レティシアっ!! こいっ、一緒に奴を倒そう」


 空中から落下するように剣を構えてドリュファストへと向かう獅童はレティシアへと叫んだ。


「———っふふ、あなた方には本当に敵いません、獅童どの! 今参ります!!」


 レティシアの背中から生えた大きな翼がさらに大きく、勇猛に、そしてその足は鋭く鋭利な鉤爪へと変化していく。勢いよく飛翔した彼女の速度は、以前のそれを遥かに凌駕して一瞬で落下する獅童の両肩を足で掴むと、ドリュファストへ向けて一気に急降下した。


「貴様らっ、よくも余を散々コケにっ———な、早い」


「レティシアの仇は、俺の仇だぁあああ!!」


 ドリュファストが何か始めるよりも数段早く迫った獅童は裂帛の掛け声と共にその足場になっている混沌の化物、その脳天を真っ直ぐに貫いた。


 白銀に輝く光の斬撃が突き刺した頭部から真っ直ぐに走り、混沌の化物を一気に裂いた。


「レティシアっ! 今だ、思いっきりぶん殴ってやれっ」


「はいっ、獅童どの!! 私の痛み、家族の痛み、あなたに支配されたすべての同胞の痛みを思い知れっ!!」


「ま、まて、やめろっ—————」


 その拳は早く、重く、槍の一突きがごとく、そして感情を爆発させるように放たれた無数の連打が空中で足場を失ったドリュファストの全身を容赦無く叩き穿つ。


「ぶぶぶぶぶべぁ、ヘブっぶぁああ————」


「まだまだっ」


 落下の速度に乗せて全身を打ちのめされたドリュファストの首根を鋭利な足で掴んだレティシアは更に加速して急降下、すれすれのところで身を翻し、ドリュファストだけを地面に叩きつけた。


「————グボァっ!?」


 全身を地面にめり込ませたドリュファストは完全に白目をむきピクピクと身体を痙攣させていた。その姿を冷ややかな視線で睥睨したレティシアは、興味をなくしたように踵を返し獅童のもとへ歩み寄る。


「あいつが気絶したからか? 馬鹿でかい化物も全部消えたな、というか今の“アレ”をくらって俺は生きている自信がないぞ」


 獅童は腕を組んで眉根を寄せながら、おそらく生きているが怪我ではすまないであろう状態のドリュファストを呆れた表情で一瞥し、獅童の隣に並び立ったレティシアへと視線を向けた。


「獅童どの……ありがとうございます、もしあの時、あの槍が届き奴を殺していたら、私は」


 レティシアは、俯き視線を落としながら、わずかに震えている拳を見つめて獅童へと向き直った。


「まぁな、俺も経験がないわけじゃない、おまえの気持ちもよくわかる。だが、俺が引き金を引く時は、必ず自分のためではなく、自分が守りたい誰かの為にと決めている」


「守りたい、誰か」


 獅童の言葉を深く自分の中へ落とし込むように繰り返して呟き、レティシアは握っていた拳を広げてその手を見つめた。


「ああ、例えば今の俺なら、おまえの為に引き金を引ける。だが、自分のためだけに行った行動は、例え仇を打てたとしても最後には何も残らない、虚しさだけだ」


 どこか遠くを見つめるように目を細めた獅童。レティシアはそっと胸に手を置いて何かを思い出すように瞳を閉じた後ゆっくりとドリュファストのいる場所へと視線を向けて言った。


「獅童どのの仰る言葉の意味が、今ならわかります、奴は憎い、しかし、奴から奪われたものは何も戻らない、そして皆さんが共にいてくれる私の目に、今のドリュファストはとても小さく見えました」


「そうか、時間はかかるかもしれないが心配ないっ、おまえには俺たちがついている」


 ニカっと歯を見せながら笑った獅童は、レティシアの頭をポンポンと軽く撫でた。レティシアは気恥ずかしそうに頭を押さえながら頬を赤くする。そこへ、上空からふわりと地に降り立った二人の少女がレティシアの両脇に腕を通して左右から顔を覗かせた。


「そうそう、あたしになんでも相談してよね?」


「そうどすな? もう水臭いんはこれでしまいや」


「フィナどの、レヴィアどの……はい」


 二人の言葉を噛みしめるようにレティシアはゆっくりと頷くと、笑顔を浮かべて返事を返した。獅童は、このまま状況が終了することを願い、ドリュファストのいる場所を油断なく睨みつけていると、しかし、状況は獅童の願いを組んではくれなかった。


「ぐふっごほっ、ぐぬ、ヌァああああ!! 許さぬ、決して許さぬ、許さぬ許さぬ許さぬ!!」


「しつこい野郎だ、次は確実にその脳天を撃ち抜くぞ」


 満身創痍の身体から、黒く禍々しい魔力を立ち上らせながらドリュファストはその身を起こして叫んだ。


「剣崎獅童!! 貴様だ、貴様さえいなければぁああっ! 《偶像召喚:憑依:蝿の王ベルゼブブ》」


 空間が悲鳴をあげる、獅童達の目の前に巨大な絶望が顕現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る