〜幕間〜

 

 高層ビルが立ち並び、多くの人々が忙しなく入り乱れる巨大な都市。時刻は日付変更線を過ぎても尚、街に灯る明かりが消える事は無い、そんな都市を一夜にして恐怖で震撼させる程の凄惨な事件がとあるオフィスビルの一室でひっそりと起きていた。


「お前達が悪いんだ、私を認めようとしないから。私の思い通りにならないお前らが」


 明かりの消えた室内、デスクに並んだ液晶の画面から漏れる明かりは暗闇の中にあって不気味に灯り。

 薄らと照らされる室内には至る所に赤い斑点が飛び散り、整列していたデスクは乱雑に投げ出されていた。

 そして床には、恐怖に歪んだ顔を硬直させもう瞬きをする事のない瞳で虚空を見つめる無数の人々。


 一人、また一人とその足を引きずられては部屋の中央に彼等の血液によって描かれた怪しげな文様の周囲に連れて行かれては、何者かに捧げる供物のように丸い円を象った不可思議な文様の周囲へとまるで人形の様に並べられていく。


「私を認めない世界なんて、私が認めない。この腐った世には救世主が必要なんだ、私が世界の光になる」


 全身を返り血で染めながら、むせ返る様な悪臭の漂う空間でぶつぶつと独りごちる男。

 円形に血文字で謎の文様を描き、古い本を片手に怪しげな異語を紡ぎながら人形の様に飾られた骸に囲まれる男は円の中心で何やら祈りを捧げる様な格好で膝をついた。


「私に、力を」


 男がその血に塗れた両手を床につくと同時。

 紫黒の光が描かれた文様から溢れ出し、中心部から一際強い闇色の光が禍々しく輝いたかと思えば、呆然とする男の目の前に牛の頭部の様な頭蓋の仮面をつけた燕尾服の人物がいつの間にか見下げる様に立ち尽くしていた。


「いいですねぇ、理不尽な死による怨嗟と恐怖に染まった魂は実に甘美です、はい。もしや貴方様が私を呼び出し、こんなにも素敵な晩餐へご招待していただいたのですか?」


 白骨の仮面、その奥から怪しげに光る瞳を覗かせて、膝をガタつかせながら口をパクパクと開け閉めしている男へ上品に一礼する。


「は、はは、ははははははは! やった、成功した! 私を見下してきたこの世に、私の必要性を認めさせる時がきた!!」


 男はゴクリと生唾を呑んだ後、壊れた様に笑い声をあげ狂気に淀んだ瞳を剥き出しにしながら欲望のまま叫び、その様子を静かに見つめていた白骨の仮面は、狂気する男へ寄り添う様に語り始める。


「この、世界ですか、はい。貴方の様なお方が十全に力を発揮できない世界などいっそお捨てになられませんか?」


「そ、それはどういう事だ?! わたしは、この世界で誰もが求める」

「王となられる」


「––––––?!」


「貴方様の本来眠る力が解放される世界————そこで王となり、意のままに世界を統治する。如何ですか? そして私にそのお手伝いをさせて頂けないかと、我が君。はい」


 男は、醜悪な笑みを浮かべると、無言のまま頷きその場から姿を消した。

 残された凄惨な現場は翌日発見され、オカルト信者による無残な大量殺人事件として大きく報じられる事となり。

 すぐさま重要指名手配となった男“アンドリュー・へイスト”はその後も消息が掴めず、都市全体を一時恐怖に陥れた。

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