二章〜覚醒編〜
拾壱
剣崎獅童は、混濁する意識から目が覚めた瞬間。見たこともない場所で、怪しげな集団に囲まれ、牢獄へと幽閉されてしまう。そこで、獅童は“爪牙人”の少女フィナと出会い、さらに囚われの身となっていた少女達との出会いを果たす。そして獅童は、自分が“別の世界”に来てしまったことを初めて自覚するのだった。
獅童はレヴィアと会話をする中で、自分が異なる世界から来た人間である事。そして、それが事実であるならば当然戻る方法を探したい。と言う考えが
少女の鮮やかな海色の瞳。しかし、その瞳の奥は深海のように深く、そこの知れない恐怖を本能に感じさせる。獅童は一先ず、自分の考えを呑み込み、レヴィアの言う事に従った。
「ともかく、この城から出て自由になるんが最初の目標どす。その為には、この子らの助けが必要なんどす」
「わかった、確かに俺もこの場所からは、いい加減出たい。ただ、彼女達を奴隷や下僕のように従える事はしない。囚われて既に支配とやらを受けている彼女達を見たあとじゃ、余計に気が引ける」
「しどうはんは、優しいなぁ」
「当然よ、あたしの選んだしどーだもん」
「ご主人様のくせに生意気」
いつの間にか、喧嘩を中断したロゼとフィナがレヴィアの意見に割り込んで乗っかる。自分達がじゃれあっている間にレヴィアと獅童を二人きりにさせてしまった事に気がついた少女達は、一旦休戦する事にしたのだ。
そして、意見のまとまった獅童達は残る三人の少女達を支配から解放していく。その度に流血し、フィナやレヴィアから激しい突っ込みを入れられていた獅童は、最後の少女をその支配から解放した時には、満身創痍と言った状態だった。
「こ、これで——終わり、だよ、な」
全ての少女達に血を与え、支配から解放した獅童は急激な脱力感に襲われその場に倒れ込んだ。慌てて駆け寄ったフィナ、ロゼ、レヴィアに続くように自我を取り戻した少女達も獅童の元へと身を寄せる。
「獅童様!? 大変ですわ! お休みになられるのならわたくしの膝で——」
「あれれ? しど君倒れちゃったの? あーしが元気にしたげるっ」
「獅童殿! この度は、人間であるあなたが、爪牙人である私を助けてくださったこの御恩に報いる為、一つ御礼を——私の裸を見て欲しい!!」
獅童の頭上でごちゃごちゃと自己主張と牽制をし合う少女達。そんな混沌とした状況を整理する為に獅童は身も心もボロボロの状態でなんとか立ち上がり、少女達の顔と名前を照らし合わせながら情報を整理していく。
「大丈夫だから、一旦落ち着いてくれ——全員で六人か、支配の解放が無事成功してよかった」
「そうよ、ロゼのご主人様があなた達を解放した、つまりロゼがあなた達のご主人様に」
「ならないわよ、あんたが喋るとややこしくなるから黙っていて」
「——っちぃ」
よくわからない理由でマウントを取りに行った紫色の髪に蝙蝠のような羽を持つ少女ロゼ、そこへすかさず突っ込みを入れるのは、獅童がここで最初に出会った、癖っ毛の金髪に虎柄の尻尾と耳を持つ少女、フィナだ。
「あんたら仲えぇなぁ? しどうはんの事はうちがおるさかい、その辺で遊んではってもよろしおすえ?」
「「仲良くない!!」」
クスリと微笑を浮かべる少女は、蒼穹の髪に深い海のような瞳、そして青と白二対の尾を持つ“竜の少女”レヴィア。少女達の中で最も異質な雰囲気を纏っている彼女ではあるが、獅童の目には、少女達とのやり取りを心底楽しんでいるようにも見えていた。
「とりあえず、あっちは放っておくとして……君は、カミラだったかな?」
「はい!! 獅童様!! わたくし、獅童様に名前で呼んでいただけるなんて……幸せでこの胸が張り裂けそうですわっ」
一際大きな胸の谷間を獅童へと強調しながら、その表情を火照らせる少女は栗色の長い髪を丁寧に巻き、品の良い顔立ちに、今はボロボロだが上品な衣服を身につけていた。藍色の瞳、その瞳孔は横に平たく、頭には小さな白い角を生やしていた。
「鬼? いや、山羊??」
頭に生えた角から、獅童は真っ先に鬼と言う存在を連想したが、その特徴的な瞳孔を見て考えを改めた。そして右手に嵌められた指輪へと視線を向ける。
「精霊石の指輪ねぇ。確かレヴィアの話だとこれに“魔力”ってやつを注げば彼女達の情報が見れると……全身に流れる水をイメージして? 指輪に注ぐ感覚」
獅童はレヴィアと話す過程で、この世界にあると言う“魔力”の存在、そして指輪は人間が“クラス”と言う特別な力を理解する為に作り出したものである事を聞いた。ドリュファスト達が獅童のクラスを知る為に用いた指輪だが、レヴィアは希少なものだからそのまま貰っておけと、獅童に指輪の使い方を教えたのだ。
そしてカミラを前に指輪へと魔力を注いだ獅童。瞬間、指輪から白銀の光が発せられ、立体的な映像が出現する。
◇◇◇
カミラ・アイベックス《種族:
《クラス:
《アビリティ:獣化》獣に近い姿への体質変換、全能力上昇
《スキル:
◇◇◇
「
一人考えにふける獅童は視界の端に、フィナやロゼを
「獅童様?! どうされましたの? 鼻から血が、すぐに拭いて差し上げますわっ」
レヴィアの可愛らしく微笑んでいる姿に大部分意識を持っていかれてしまった獅童は、緩んだ鼻から再び鮮血を漏らす。そんな姿に驚いたカミラは、獅童の出血を止めるべく。
「今は獅童様のお顔を拭いて差し上げられる綺麗な布が、ここしかございませんの」
その豊かにたゆたう胸を獅童の顔に押しつけた。更におびただしい出血を伴い、パッと見地獄絵図のような様相を呈した所で。
「あぁ、ずるいよぉ!! しど君、あーしの方が大きいよ? 見て見てぇ」
「んなっ! ちょっとルーシーさん? 今、わたくしが獅童様を介抱……大きいですわ」
横から突如割って入った大柄な少女は、黄金色の瞳をクリクリと輝かせ、無造作に伸びきった真白な長い髪を揺らし、その頭には丸みのある獣の耳を生やしていた。
そして、カミラのそれよりも遥かにボリュームのある豊満な胸を躍らせ、勢いよくカミラごと獅童の横面をバインと柔らかな双丘で弾き飛ばす。あまりの勢いにカミラは気を失い、しかし、獅童はその幸せな感触になんとか意識を保った。
「な、なんて凶悪な胸だ——夢かこれは!?」
「ん? 夢? 違うよぉ?? 触ってみる?」
「なんと……そうだな、夢かどうか確かめる必要があるかもしれない! では失敬して」
「うんうん! いっぱい触って良いよぉ?」
満面の笑みで獅童の眼前に巨乳を寄せる少女に、獅童はゴクリと喉を鳴らし、指をわきわきさせながらその手を胸へと伸ばす。
「——ダメだ、眩しすぎるっ、俺のレベルでは美少女の胸を揉むなどハイレベルすぎるのかっ」
無意識に流れ込んだ魔力に反応した指輪が獅童の指先で白銀の光を発していた。
◇◇◇
ルーシー・ウルスブラン《種族:
《クラス:
《アビリティ:獣化》獣に近い姿への体質変換、全能力上昇
《スキル:
◇◇◇
「ん? ルーシーは熊? ブランは確か白? 白熊……」
「なにしてんのよっ!! この変態しどー!!」
「ぶっふぁぁあ」
ニコニコと笑みを浮かべたままのルーシー、そんな無垢な笑顔の前で指をわきわきさせながら、豊満な胸に触れる直前で静止して指輪に映し出された情報に視線を向けていた獅童へと、叫び声と共に金色の物体が弾丸のように飛び込み、勢いよく獅童を吹き飛ばした。
「ぁ、またやりすぎちゃった」
「あぁ、しど君蹴ったらダメだよ? ふふふ、フィナ君もかぁいいねぇ」
「ぇ、ちょっ、おろしてっ! やだっ————ミギャァ!?」
獅童を猛烈な勢いで蹴り飛ばしたフィナは、空中でルーシーにキャッチされ、少女のそれとは比べ物にならない膨らみに、ぎゅむっと埋められた。そして凄まじい膂力により自由を奪われたフィナはそのまま至る所をモフられる事になり、最終的には猫のような悲鳴をあげながら連れ去られて行った。
「大丈夫ですか? 獅童殿」
「んっ? あぁ、すまない。君こそ怪我は————ヒェ!?」
獅童を包み込むようにキャッチした褐色の肌をした少女は、少女と言うには些か大人びており、例えるなら美男子のようで、目鼻立ちの通った中性的な顔立ちにフィナよりも明るい短めの金髪は、前髪だけが黄金色の瞳、その片方にかかっている。何よりも目につくのは背中から生えた大鷲のような勇ましい翼であろう。その翼に包まれるような形で、獅童は情けない事に、彼女からお姫様抱っこで抱えられ、獅童の両手はルーシーやカミラほどでは無いが、確かな柔らかい膨らみに触れていた。
「す、すまない!!」
獅童は慌ててその胸に触れていた手を放し彼女の腕の中から飛び降りる。思わぬラッキースケベ、しかし、今回はそんな嬉しさよりも、圧倒的に恥ずかしさの方が優っていた為、興奮するどころではなかった。
「気にしないでくれ獅童殿、これくらい貴方から受けた恩に比べれば大したことでは無い」
僅かに頬を赤く染め、だが、凛とした佇まいで接する彼女の姿に獅童はちょっとした安心感を覚える。いくら獅童が美少女好きとは言え、猛烈なアプローチと躊躇なく我が身を差し出す感覚は獅童にとって少々刺激が強すぎる側面があった。故に獅童は冷静に会話できる彼女に対し、他の少女達とは違う意味で好感を抱き。
「いや、そんな事は無いだろう。本当にすまない事をした、君はなというか真面に会話が出来そうで助か——」
「私の……私の裸を見てはくれないだろうか?」
突然の申し出。獅童は一瞬で硬直し、彼女はしおらしく俯きながら、だが躊躇する事なく、身体を覆っている心許ない布切れに手を掛け、大胆にはぎ取る。
「さぁ、私の全てを見てくれ! 獅童殿——?! あれ? なにこれっ、いたっいたたた」
布切れを剥がそうとした瞬間、彼女はふいに地面から浮き、宙吊りになる。そして頭部を鷲掴みにされているような痛みが走り。
「公衆わいせつ罪——未遂。現行犯だ」
獅童は彼女の頭にアイアンクローをかまし、その握力だけで宙に浮かせていた。獅童にとって健全な変態は歓迎だが、周りを巻き込む変質者はアウトなのだ。
「痛いっ、獅童殿?! ちょっほんとに痛いっ、いだだだだだっ、ぁ」
ミシミシと頭部が軋む音に合わせて苦痛を訴えるその声が最後妙な吐息に変わった所で、頭を掴んでいる指先から白銀の光と共に立体的なプレートが出現する。
◇◇◇
レティシア・アリオル《種族:
《クラス:
《アビリティ:獣化》獣に近い姿への体質変換、全能力上昇
《スキル:
◇◇◇
力を緩めた獅童の手から、解放されたレティシアはその場で尻餅をつき、どこか火照った顔つきで身体をくねくねとさせていた。獅童はどことなく引きつった表情でその姿から視線を外すと周囲を見渡す。
「フィナ、レヴィア、ロゼ、カミラ、ルーシーか……よし、全員覚えた。さて、これからどうするか」
「し、獅童どのぉ、私は」
「ん? あぁ、レティシアな、うん、今忙しいから後で」
獅童の中で犯罪者認定されたレティシアは冷たくあしらわれ、しかし、なぜかくねくねと身をよじっていた。獅童は特に気にすることもなく、これからどうするかを話し合おうとした瞬間。
からんと、杖が床に転がる音が通路から響く。同時に空気を震わせる程凄まじい殺気が覚醒した少女達全員から放たれ、廊下へと向けられる。
「——こ、これは。剣崎殿、一体なにを」
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