第18話 主討伐 3
死ぬ。死ぬ。死ぬ。異世界なんかに来て以来、最大の危機だ。腰が抜けて、体が動かない。無様に這いつくばるしかない。
来る。焼かれて死ぬ。嫌だ。なんでもいいから、消してくれ。助けてくれ。
ほら、こんなに水があるじゃないか。さっき焼かれた魔法使いがやっていたように。一発じゃダメだ、沢山だ。何発も何発も。も、おおおおお!
「はぁ、はぁ、はぁ......え?」
夢なのか?今、自分が想像した通りの現象が起こった。周囲の大量の水がうねりながら主の噴く炎を消しとばした。
これは...魔法というやつじゃないのか?でも聞いていた話とは違う。魔法を起こすには詠唱と魔方陣が必要だと
「おい、逃げるぞタキジ!」
「なんか知らないけど助かったぜ」
「早くしないとまたやられるよ!」
そうか。3人はあまりの恐怖で動けなくなってしまった俺を見捨てなかったのか。
「申し訳ない。俺のせいで危ない目に合わせてしまった」
「危ないどころじゃねーぞ!」
人と会話する事で落ち着きを取り戻しつつ立ち上がり、主から逃げようとする。
しかし主という存在は獲物を簡単に諦めるようなヤツではなく。
「え...」
左足を振り上げてきた。頭上に大きい影が重なる。
このままでは踏み潰される。ペチャンコだ。しかし今の俺は奇妙な全能感が纏わりついていた。
これくらい防げるんじゃないかという、奇妙な自信が。
ドッゴオオオオオオン!!!
巨大な体を持つ主人の左足は当然、巨大な質量を持っている。しかし俺は踏み抜かれることはなかった。なぜなら左足が空中で止まっているからだ。
まるで不可視のシールドだ。
まただ。また想像通りの現象が起こった。もしかしてこれは
「精霊だ!タキジに精霊が付いているんだ!」
言わせてくれ。
「これが...精霊」
体がぼんやりと光っているのは見間違いじゃない。この全能感も。
ならば。
「主...俺たちが助かるため、精霊とはなんなのか知るために、倒させてもらう」
業を煮やした主は両足を振り上げ、全質量を持って踏みつぶそうとする。
「シールドは、どこまで耐えられるのか」
ガシィィィイイイイイン!!!
再び不可視のシールドが出現し、俺たちが潰されることはなかった。そして周囲が深く窪む。
「デカイからって調子に乗りやがって!おおおおおお!」
今の俺には、自分より遥かに大きい拳さえ創り出せた。
もちろんこれも見えないが、確実に主のボディに打撃を与えている。
ドゴオォッ!
最後に溜めを作ってから主の鼻っ柱に叩き込むと、主は吹っ飛んでいった。
「なっ、何が起きている!?目には見えない盾、拳、そして水流を操る力...まさか精霊かっ!」
後方で戦況を観察していたビードルは、突然の逆転に動揺していた。しかしそこは開拓地を任されるだけはある。切り替えが早かった。
「タキジッ!今のお前には精霊が付いている!精霊が居ればなんだって、世界を思う通りに操れるんだ!だから、まずは、主にトドメを刺してくれえぇぇ!無事な者は『手』『星』『城壁』『太陽』の救助に向かえ!どっちも巻き添えを食わない様にだ!」
何でも、出来るのか!ならさっさとこいつを倒してしまおう。
主の首を巨人の手で絞めるイメージ。倒れている主の首元がへこんでいる。が、仕組みは分からないが上手く力が入っていないと、感覚で伝わってくる。
右手を向ける。左手を突き出す。イメージしやすいように、実際に力んでみる。
「くうぅ、頼む、早く死んでくれ...」
力が入るのと同時に、頭がガンガン鳴っている。視界がチカチカする。ぶっ倒れそうだ。だから、恨みはないが、危ないから、仕事だから、よく分からないが、怖いから、
「く、おおおぉぉぉ!」
逝ってくれ。
「グウウウゥゥゥゥオオオオ!」
直後、尻尾が強かに地を打ち、跳び上がる程の揺れが起きた。
異世界生物図鑑 プラント @syousetuplant
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界生物図鑑の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます