第11話「胸の行方」
図書館を訪れるのは久しぶりだった。
最後に来たのは十一月の下旬。もう二ヶ月以上も前になるのか。
この前の夢に出てきた、推定アラフォーの謎の男。
さっぱりとした丸刈りに、たまご型で大きめの顔。剃り残しの多い濃いめのひげ。僕の脳裏には、いまでも彼の顔が焼きついている。いい大人なのに、なぜか児童室にいた彼。
わざわざ、図書館に足を運ぶ理由はなかった。
試験終了の時間までどこかで暇をつぶす必要はあるけれど、別にあのままドトールにいてもよかったし、飽きたら本屋にでも行っていればいい(ドトールから徒歩二、三分の場所に、それなりの規模の本屋がある。今日持ってきたスラムダンクもそこで買った)。なにも駅から片道三十分も歩いて、こんな古びた図書館に来なくてもいい。それなのに、どうして僕はいま図書館の前にいるのだろう。行き交う大人や子どもを横目に、思わず半笑いを浮かべた。
自動ドアをぬけて中に入ると、館内は結構混んでいた。二十代から六十代ぐらいまでの幅広い男女が、あちこちに散らばっている。そういえば、休日に来たことはほとんどなかった。いつも平日の放課後に訪れていたのでその感覚だったけれど、今日は学校も仕事も休みの人が多いから、いつもより混んでいるのは考えてみれば当たり前だ。
トイレに寄って用を足してから、階段をゆっくりと上って、二階の児童室へと向かった。
児童室の入り口――といっても扉はなく、中の様子が少し見える――横の水飲み場(足で押すタイプ)の前に佇み、耳だけで中の様子をうかがう。
静かだ。さっきの一階の混雑ぶりと比べて意外なほどに、二階はひっそりとしている。その静けさとは裏腹に、僕の心臓は
僕は、期待しているのだろうか。彼がいることを。
得体の知れない謎の男。いい大人が平日の真っ昼間からこんなところでのんびりしているなんて、ぜったい普通じゃない。しかも、なぜか突然頭突きされた。あまりに不可解で、この図書館で起きたことはほかの誰にも話していない。図書館にふと足が向いてしまったのも、たぶん久しぶりに夢のなかで再会したあの男のことが気になっていたからだろう。
でも、いったいどうしてだろう。頭突きまでされたというのに、どうして彼のことを――。
本日何度目かの逡巡ののち、意を決して児童室へと足を踏み入れた。
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