格子の向こう

音澤 煙管

その眼を見れば全てわかる。





彼女の眼は透き通ってキレイになった。


だいぶ前に知り合った頃、混沌とした面持ちで眼も燻んでいたし元気の無い女性という印象だった。

事情やら訳やら、あえて聞かずに過ごしていたが、時が経つにつれて言動も柔らかくなっていく。何か良いことがあったんだろう、くらいに思っていた。

ところが、先週の金曜日に実の母親が亡くなったと聞かされた。

それからと言うものの、彼女の行動は今までとは違っていた。それまでシックで地味な服しか身に纏わなかったが、明るい色になり、小物にまで気を利かせて見ちがえる様な別人に生まれ変わった。

女性には、聞いてはいけないことだとわかっていたが何気なく質問した。


「あー、私ね?母親の死をきっかけに、父親が通夜に現れて葬式に出席してもいいか?と聞かれたので、日程と斎場を教えたの。その後、数十年前から追っている刑事さんへ連絡して、火葬の当日斎場で捕まったの。

私が父親の目の前で弟とケンカして押し倒し打ち所が悪かったのか亡くなって、その罪を被って逃げ回りそれをいいネタに私に生活費を毎月要求していて、もう何十年もの間アイツのためにパートで稼がなくてはいけなかった、それがもう終わるとなるとスッキリしたわーははっ」


その話を聞いて、ぼくの彼女を見る眼は燻んでいた、自分でもよくわかるくらいに。

彼女には、ぼくの職業が警察官だとはまだ言ってはいない……。




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