第2話 引力 再開


あのキラキラした日常は1日しか持たなかった。

今日で丁度1週間

とおる君と1度も会えてない


おそらく同じ会社であろう

あの敷地内でスーツで出会ったから入社式に出席したのだろう


多部署なのだろうか

彼は今、何をしているのだろうか


気付けば私はとおる君の事ばかり考えていた

会えないのは悲しい


あんなにキラキラしていた入社式の日が嘘のようだった


紙をクシャクシャにしたような、黒いペンでぐちゃぐちゃに白を黒に塗りつぶしたようなそんな日常になっていた


恋ってこんなに辛いのか

なのになんで女の子達は恋にハマってしまうのだろう


「おーい、この書類、営業部に渡して欲しいんだけどいいかな」


私は上司から営業部に渡す書類を受け取って自分のデスクから離れた


私の所属している部署から、営業部まではそんなに遠くはない

場所も食堂に行くときに通るので把握している


渋々、営業部に向かう


ドン


「きゃっ」

「うわっごめん」


散らばった書類を急いで拾ってくれる男の人

聞き覚えのある声に私は思わずその人に近寄った


やっぱりそうだ


「あの、ごめんなさい」


申し訳なさそうに、その人は書類をまとめて私に渡してくれた


「また、拾ってもらった…」


「え?」


私は書類を大切に抱き締め、再会を喜んだ

また物を拾ってもらった、運命的な出会いと同じだ


あんなに暗かった私の視界は、あなたに出会えたことで輝き出した


わかった、女の子達が恋にハマる理由

この輝きが愛おしくなるからだ


ねぇ


「とおるくん、ありがとう」


私は笑顔であなたにお礼を言った


「いえ、では」


とおるくんは、そう言ってどこかへ小走りに行った

チラりと見えた首にかかった社員証


営業部の足立 徹くん。だった


私はすぐにスマホのメモ機能に足立 徹とメモを残して、『徹 意味』と調べた


ゆきとおる。つらぬきとおす。


確かに徹くん、仕事に一生懸命そう

責任感が強くて優しい


私はまた徹くんを知れた

また一歩徹くんに近付けた


これは、私の恋がよんだ奇跡。もはや引力

引力が働いたみたいに再開した


なんてドラマチックなんだろう!


__________________


日記


今日も雑用ばかりやらされた

倉庫からコピー用紙を取ってきてと言われたから取りに行ったら女の子とぶつかった


変わったことはそのくらいで今日も平和だった

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あなた好きなの 常夏 果実 @tokonatsu0722

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