あなた好きなの

常夏 果実

第1話 運命 出会い


株式会社 ◯◯に入社した


特にやりたいこともなかったし、大学を卒業して、そこに面接に行ったら受かった


スーツに腕を通し、未だに履きなれないヒールを履いて入社式へ向かった


もっと大学でオシャレしてヒールを履きなれてれば楽だったのか


私は痛む足を我慢しながらそんな事を思った


圧倒的に大学時代はローヒールやスニーカーを履くのが多かった

そっちの方が楽だからだ


そんな事を考えても私は仕事以外ヒールを履く気がない

何故なら履くメリットが見つからないからだ


オシャレとかスタイルが良くなるとか、それでも履くメリットを見出せない


「あの」


後ろから低く控えめな声がした

私は振り返って確認をした


細い男だ。短めの髪は清潔感がありスーツに皺1つない

見た目的には、きっとイケメンの部類ではないだろう

だが、私はこうゆう無難な人好きだ。


「なんですか?」


「ハンカチ落としましたよ」


私のハンカチの砂埃を払って男の人は私に渡してくれた

ひとつひとつの仕草が丁寧な人だ、そう感じた


「ありがとう」


「いいえ」


えくぼ出来るんだ


私はその人に目を奪われた

頭の中ずっと焼き付いて離れない

その人の笑顔や仕草


「おーい!とおる!何してんだよ!」


「わりぃ!じゃあ行くね」


その人は私に笑顔でそう言い、友達と思われる人の元へ去って行った


とおる。とおるさん。


どんな時を書くのかな

私はスマホを取り出し『とおる 名前』と調べた


透、亨、通、亮…


徹 するりと突き抜ける。つらぬきとおす。 とる。すっと抜きとる。とり去る。


あの人は私の何かをとり去った。

私は手帳の今日の日付に1文字、徹と書いて静かに閉じた


徹、この文字を書くだけで心がソワソワする

あったかくて気恥ずかしいようなこの気持ち


思わず鼻歌を歌いながら、私は小走りで入社式の会場へ行った


あの人の存在が、何の意味も目標も持たなかった私の人生に輝きをくれた


こんなにキラキラとしていて、身体が軽くなる感覚、生まれて初めてだ


きっとあの歩きづらいヒールを履いてオシャレをする女の子たちは、この感情を成就させる為に頑張るんだ


そっか


そうだ


これが恋


「運命的な出会いをしたんです」


私は楽しげにそう呟いた


__________________


日記


今日は入社式だった。


前の女の子がピンクのハンカチを落としたから拾って渡してあげた

淳たちがそれを見て、ひやかしてきた


今日も何もない平和な日だった

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