逃げる時は逃げる

「別に喧嘩したとかじゃないんだけど、ちょっとメリルと意見が衝突してな」


「意見の衝突か……その感じだと、あまり普段から衝突することはないみたいだね」


「まあ……そうだな。ちょっとした喧嘩? みたいなのはあるけど、今回みたいにがっつり意見が衝突したのは初めてだと思う」


いつもシュラとメリルが、何かしらの内容で意見が対立……っていうか、大体どっちかが正論をぶちかますか、ちょっとからかうから喧嘩みたいになるんだよな。


「それで、意見が衝突して、上手く解決しなかったの?」


「ん~~~、なんて言うか……パーティーの方向性? みたいなものは一応決まったんだよ。多数決で俺の考えが勝ったから」


シュラの意見から始まったから、当然シュラは俺の考えに賛成だった。


セルシアも決してリスク管理が出来ないわけではないけど、シュラ寄りの考えを持ってるから、あまり迷うことなく俺の考えに賛成してくれた。


「確かに、迷ったら多数決は大事だよね。話し合うのも大事だけど、誰かが最後の最後まで納得しなかったら、最後の手段として多数決をするしかないと思うよ」


「そう言ってくれると嬉しいよ」


話はちゃんとした。

まぁ、メリルも俺の考えを完全否定したい訳ではないって感じだったし……うん、多分その筈。


「とりあえず、地下遺跡の一番下の階まで降りようと考えてるんだ」


「一番下……って、いったい何階層なの?」


「………………………さぁ、何階層まであるんだろうな」


ぶっちゃけ、そこに関しては全く解ってない。

これはヴェルデたちに情報を隠すためとかじゃなくて、真面目に解らない。


セルシアと一緒に転移トラップで転移して、下の階層に跳ばされた時の階層であっても……正直、まだ中間より上なんじゃないかと感じた。


「そ、そんなに多いのかい?」


「多いな。前に、俺たちが墓場っていうダンジョンを探索したんだけど、そのダンジョンの階層数が五十回だったんだ。まだ五十階も階段を下りてはいないけど、それ以上あってもおかしくないと思う」


仮説であるダンジョン化……現在その途中とかであれば、更に階層数が増える可能性とかあるしな。


「なるほど……因みに意見の衝突っていうのは、メリルさんは最下層まで探索するのには反対って感じってことかな」


「そんな感じだな」


「そっか………………僕は、Aランクモンスターまでなら、大丈夫だと思う。ただ、それ以上のモンスターが生息してるとか、何体もAランクモンスターが徘徊している階層とかがあるなら…………それでもラガスさんたちなら大丈夫だと思うんだけど、やっぱりリスクがあるというか」


「ふふ、まぁ大体メリルと同じだな。でもな、ヴェルデ。リスクがある、大きくなるから探索を止めるっていうのはさ……ダサくないか」


「いや、それは……う、う~~~~ん…………そうじゃないと言いたいけど、確かにそうだと思う部分もあるというか」


「だろ」


俺も、そうじゃないと言いたい部分に関しては、解らなくはない。

ただ……改めて考えると、やっぱりダサいんだよな。


「俺はさ……遠距離攻撃のスキルを授かったんだよ。だから、幼い頃からモンスターと戦ってても、安全圏から戦うことが多かったんだ」


ぶっちゃけ接近戦で戦ってた回数の方が多い気がしなくもないけど、生まれた頃から頑張ってスタートダッシュしてたのを考えれば、安全圏から戦ってたっていう言葉は間違いない。


「学園に入学してから、ハンターになってからもそうだったかな……なのにさ、急にこのままリスクのある探索を続けるのは良くないって、既に探索を始めてしまった地下遺跡の探索を止めるのは、ダサいと思わないか」


「…………ラガスさんのこれまでの経験があるからこそ、そう思ってしまうのは、逆に当然な流れなのかもしれないね。でも、やっぱり死ぬ可能性は高まりますよ」


「だからこそ、ちゃんと手札は揃えてきた」


「それなら……良いんじゃないですかね。でも、またこうして呑みたいので、五体満足で帰ってきてくださいよ」


「努力する、とだけ言っておくよ」


これも当然と言えば当然だが、ヤバいと思えば逃げる。

全力で逃げる。


ダサい真似はしたくないけど、命を無駄にしたくはないしな。

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