滑った

「んじゃ、乾杯」


「乾杯」


一応メリルたちとの話し合いが決着してから数日後、がっつり休息を取ってる時に、珍しく一人で歩いてるヴェルデと遭遇。


せっかくならと、夜一緒に呑まないかと誘った。


「ふ~~~……ラガスさんが呑みに誘ってくれるなんてね。お酒には……割と強いんだったけ?」


「両親が元ハンターで、二人ともそこそこ呑めるタイプだったらしいから、血統的にも多分それなりに強いかな」


そういえば、実家に仕えてくれてる騎士の人に、酒が呑めるようになったら一度限界を知っておいた方が良いって言われたっけ……二日酔いはまだ我慢出来るけど、吐くまで呑むのは……ちょっとあれだな。


「なるほど。それなら確かに強そうだね……ところで、地下遺跡の探索で、何か面白いことでもあったのかな」


「あったよ。マジであったよ」


言っても良いんだっけ? と思いながらも、特に口止めとかされてないから、この前あったことを全部伝えた。


「転移トラップに引っ掛かって、その後はAランクのモンスターに…………なんと言うか、物凄い冒険というか、命が幾つあっても足りない冒険だったね」


「本当にそうだったよ。ほら、エスエールさんたちから個体のランク自体はBだけど、Aランクモンスター並みの強さを持ったモンスターと遭遇したって話を聞いてたからさ、割と不安があってな」


「……不安を感じる気持ちは解るけど、ラガスさんがそれを言ってると……ちょっと、違和感があるね」


「そ、そうか?」


「うん。あっ、でもラガスさんたちが体験してる冒険は、今僕たちが体験してる冒険とはレベルが違うから……別におかしくはないのか」


う~~~~ん、ちょっと反応に困る。

ただ、おそらく違和感の正体はそこだとは思う。


「だって、地下遺跡って未開拓地よりも生息してるモンスターの平均的な戦闘力が高いんだよね」


「そうだな。転移先から戻ってくる間にも、割とBランクモンスターには遭遇したし」


あれって、普通に考えれば帰還難易度ハードモードだよな……って考えると、何が何でもあの時セルシアと一緒に飛ばされて正解だったな。


「僕達が探索出来るようになるのはいつになることやら」


「ヴェルデたちが潜れる頃には、また状況が変わってるかもな」


「状況が、変わってる?」


「……………」


しまった。つい口が滑ってしまった。

ここで黙っちゃあ、何か言えない事を隠してるって言ってるようなものだよな……マジ、どうしよう。


「あの地下遺跡は、普通の地下遺跡じゃないよな~ってこの前エスエールさんたち話しててさ。だから、ヴェルデたちが潜れるようになる頃には、目ぼしい物がなくなってるとかじゃなくて……うん、また違う状況になってるかもしれないんだよ」


「なるほど……確かに、ダンジョンみたいなトラップがある時点で普通じゃないもんね……それにしても、普通にAランクモンスターが徘徊してるってところに、心底恐ろしさを感じたよ」


「あれはなぁ、本当に恐ろしかった。墓場っていうダンジョンの最下層にいるボスモンスターより恐ろしかった」


「そのモンスターも、Aランクなんだよね」


「ハイ・ヴァンパイアっていうモンスターだ。イレックスコボルトは同じAランクだったけど……まず、放ってる圧の……鋭さ? が違ったからな」


「ラガスさんでも恐ろしさを感じるモンスター、か…………ふふ、ダメだね。今はまだ無理だと解ってるのに、どうすれば勝てるのか考えてしまう」


「……ふふ、良いじゃん良いじゃん。そういう考え? ていうのが、後々役に立つと思うぞ。災難なんて、いつ降りかかってくるか解らないんだからな」


もし、イレックスコボルトの方が先に俺たちの存在に気付いてて、急襲されたら……うん、本気でヤバかった。


ルーフェイスが反応してくれたかもしれないけど、俺は反応出来てたかどうか…………。


「その通りだね。ところで、ちょっと疲れた? 顔をしてるけど、ここ数日間は地下遺跡や未開拓地で探索は行ってなかったんだよね?」


おっと、気付かれてしまったか。

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