比べるものではない
そうか、そうだな……シュラの言う通りだな。
「……ラガス坊ちゃま。私としましては、今のラガス坊ちゃまが大丈夫とは思えないのですが」
「いや、本当に大丈夫だから安心しろっての」
「…………分りました。それで、いったい何に気付いたのですか」
「簡単な話だよ。あの時、イレックスコボルトと対峙した時……後、一応俺とセルシアが下の階層に転移させられた時もか。その二回……俺たちは、確かに冒険した」
本当にヤバいと、ハイ・ヴァンパイアと戦った時以上の恐ろしさを、イレックスコボルトから感じた。
それと、セルシアと共に下の階層に転移してしまった時、このまま無事にメリルたちと合流出来るのかという心配があった。
ただ、今思えば、そういう感覚を多くのハンターは何回も味わってきた筈なんだ。
「冒険、ですか……私としては、あまり良い冒険とは思えませんが」
「はっはっは!! 確かに、セルシアと一緒に転移した時は、かなりハラハラドキドキものだったな。でも、普通のハンターたちは、常にそういう冒険を体験して、乗り越えてきてる訳だろ」
「そうなのかも、しれませんね」
「俺たちだけ、安全距離から楽しむのは違う……って考え方は違うか」
「えぇ、違うと思います」
うっ!! め、珍しく本当に拒否? したい感じの顔だな。
「私たちには、安全距離から楽しむ……それだけの力があります。それだけ……幼い頃から積み重ねてきたものがあります。だからこそ、他の新米ハンターたちと比べて、ハンターになってから本来ルーキーたちが体験する筈の苦労を体験せずに済みました」
「だな」
「別に、私たちはのんびりとした旅を行い、ルーキーたちの狩場を荒しているわけでもありません」
そこは……否定出来ないな。
トロールの集団を纏めるファイルトロールを討伐したり、クソバカマッドサイエンティストを潰したり、全部で五十階層もあるダンジョンを探索したり……決して楽な冒険はしてない、か。
「なので、わざわざ他の方々と苦労比べをする必要はないかと」
ん~~~~~…………なんともこう、心を抉る言い方だな。
わざわざ、不幸比べをする必要はない。
確かに、それはそうかもしれない。
ただ……うん、俺としてはそれはそれ、これはこれって感じなんだよな。
「メリル。確かに俺も比べる必要はないと思ってる。というか、別に他のハンターたちとそこを競い合いたい訳じゃない。ただ、ハンターとして楽をしたくないっていうか……安全距離から戦ってるだけのチキン野郎になりたくないんだよ」
「あっ、なんかそれ、凄いしっくりきたっす!」
どうやら、シュラも同じような事を考えてたみたいだな。
「……ラガス坊ちゃま。私たちがこれまで対峙してきたモンスターは、全員が全員楽な相手ではありませんでした」
そうだな。それは確かに間違いない事実だ。
ハンター活動を始めてからカルパに到着するまで。
カルパに到着してからも、確かに楽じゃない相手と戦ってきた。
「それはそうなんだけどさ、こう……今回、地下遺跡? っていう、俺たちでもハラハラドキドキが続く探索場所があるだろ」
「…………はぁ~~~~~~~。つまり、自殺行為がしたい訳ではない。ただ、既にいくらか探索し、自分たちでもそれなりに命の危機がある場所だと解った。だからといって逃げる様なダサい真似はしたくない……といったところでしょうか」
「大体そんな感じかな」
メリルの言う通り、自殺行為がしたい訳ではない。
冒険はしたいけど、死にたくはないし、メリルたちを死なせたくもない。
ただ、あそこは危険な場所だと解ったから、ささっと退散するような真似はしたくない。
「うんうん、確かにそれはダサいっすよね。まぁ……また再度探索とかなったら、後半年ぐらいはカルパに留まる事になりそうっすから、完全にダンジョン化するまで待つ必要はないと思うっすけど」
シュラに同意だな。
とりあえず、簡単に意見を纏めると、安全圏から出ないような行動を取り続けるダサい真似だけはしたくないってことかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます