気付く

「こちらが買取金額になります」


「ありがとうございます」


買取金額が入った袋を倉庫内で貰い、カウンターに戻った後は直ぐにギルドから出た。


「それじゃ、パーッと食べに行くか」


「そうですね」


文字通り大金が入ったことだし、遠慮なく良い店へと向かった。


「ところで、これからどういたしますか」


良い感じの店に入り、個室で注文を終えた後、早速メリルが今後の事に関して話し始めた。


「これからなぁ……」


「これからも地下遺跡? を探索するんじゃないんすか?」


「いや……正直、もう結構長い間この辺りで活動してたから、そろそろ別の場所に移動しても良いかなって思い始めてる」


「マジっすか。まだ、あの地下遺跡が本当に地下遺跡なのかどうか解ってないっすよ」


そうだよなぁ…………うん、本当にそこなんだよな。

正直、俺もそこは凄く気になる。


「シュラ。あの地下遺跡はとんでもなく広いです。仮に私たちの仮説が当たっているとして、いったい最下層に辿り着くのがいつになるのか……私たちは別にカルパをメインに活動しているハンターではないのですよ」


「うぐっ! そ、それはそうかもしれねぇけどよ。でも、メリルだってあの地下遺跡の正体だって気になるだろ」


「…………」


ふふ、どうやらメリルもそこは気になってるみたいだな。


「ラガスさんだって気になってるっすよね」


「そうだな。気になってるからこそ、悩ましいんだよ」


大きな大きなダンジョンコアが使用されてるのか、それともSランクモンスターの心臓……もしかしたら、Sランクドラゴンの心臓が動力源として使用されてるのかもしれない。


わざわざ俺たちがそれを調べる必要もないんだが、どうしても気になる。

そこはなんと言うか……ハンターの血なんだろうな。


ただ、あそこで生息してるモンスターは本当に強い。


墓場でダンジョン探索をしてる時も、緊張感はあった。

とはいえ、それでも……それでも俺たちなら万が一はない、って感覚があった。


…………明らかに、ハイ・ヴァンパイアより強い個体だった。

羅門を使い忘れるというやらかしをしてしまったが、それでも……仮にあの時忘れず、羅門を使ってたとしても、楽に勝てた相手じゃなかった。


あの個体、イレックスコボルトがダンジョンの中でもトップクラスで強いならまだしも……平均よりは数段上。

でも、頂点ではないとすると……やはり、冒険心よりも恐ろしさが勝るな。


「…………ラガスは、私たちが、心配?」


「っ……俺自身も含めて、心配ではあるかな」


先が解ってない、終わりが解ってない。

本当の意味での冒険が、どれほど恐ろしいものなのか、あの探索で解らされた。


イレックスコボルトとの遭遇もヤバかったけど、正直セルシアと一緒に下の階層に転移させられた時も、あれはあれで本当にヤバかった。


羅門を使ったらあの時より余裕を持って勝てたとはいえ、羅門の反動を考えたら、地下遺跡? っていう場所を考えると、使わなくて正解だったと思えなくもない。


「……それに関しては、否定出来ませんね。まだ地下遺跡の全体把握が終わっていない以上、全体的に見て……あのイレックスコボルトが生態ピラミッドのどの位置にいるのか解らない限りは、最後まで探索を実行するのは危険が大きいかと」


「…………………………あんま、ラガスさんに反対意見を口にするのはあれっすけど、俺は寧ろ、今ようやくこう……ハンターらしい冒険をしてるなって感じるっすけどね」


っ!! ハンターらしい冒険…………まだ一年も経ってないが、ハンターとして強いモンスターとは戦ってきた筈だ。

でも、今シュラは、確かにそういった……何故だ?


「だって、冒険してて本当にヒリヒリするじゃないっすか。前に探索してたダンジョンで探索してた時もヒリヒリはしてたっすけど、今回の探索はそれ以上のヒリヒリ感っすよ」


墓場でたんさくしてた時以上のヒリヒリ感……墓場と、地下遺跡の違いは…………っ、そうか……そうだったのか。


「シュラ、だからこそ私たちは……? ラガス坊ちゃま、どうしたのですか」


「ふふ……ふっふっふ。大丈夫だ、大丈夫だよ、メリル。ただ、気付いただけだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る