バカだったから

SIDE メリル


「二人はどう思いますか!!」


ラガスがヴェルデと二人で呑んでいた時、メリルもヴェルデのパーティーメンバーであるフィーマとファールナと共に、洒落た店の個室で呑んで食っていた。


「どうと言われましても…………難しい問題ですね」


二人と合流して酒が届いてから早々、メリルは一杯目を呑み干し、先日あったラガスとの意見の衝突に関して話し始めた。


「ただ、イレックスコボルトという名のモンスターは初めて聞きましたが、どれだけ恐ろしいモンスターなのかは十分理解しました」


「だよね~~~。折角メリルさんがぶち込んだ毒を体の中で……燃やして? 掻き消したんでしょ。それでまだピンピンしてるって、さすがに反則だよね~~~」


ファールナに続いて、フィーマもイレックスコボルトの強さはヤバい、おかしい、反則だと口にする。

ただ……口端は薄っすらと上がっていた。


鬼人族らしい鬼人族であるフィーマは、シュラやセルシアよりの考えを持っているため、この場では確実にメリルの味方とは言えなかった。


普段のセルシアであれば、その辺りを読めていた筈だが……今のメリルには、それを読むだけの余裕はなかった。


「最終的に、ラガス坊ちゃまに全て任せてしまいましたし……」


「結構ギリギリの戦いだったの?」


「……うっかり、使ってないアビリティがあったので、それを使用していればもう少し余裕を持って勝利を掴めたかもしれません」


うっかりミスをしなければ、Aランクの怪物を相手に余裕を持って倒せたかもしれない。

その話を聞き……二人はさすがにそれは盛り過ぎだろ、とは思わなかった。


何故なら、ラガスの実力は十分過ぎるほど、身を持って体験している。


「けど、それを使用していれば、反動で動けない時間が生まれてしまいます」


「あぁ~~~、なるほど~~~。話を聞く限り、噂の地下遺跡は超ヤバそうな場所って感じだし、そうなると動けなくなるのは不味そうだね~」


「そうですね。Bランクモンスターが出現するのが当たり前となると、イレックスコボルトを討伐した後に、再びAランクモンスターと遭遇する可能性もあります。そうなると…………そうですね。メリルさんが心配に思う気持ちも解ります」


ファールナたちも、これまで何度も窮地と言える状況に遭遇したことがある。


だが、Aランクモンスターに遭遇したことがない二人であっても、Aランクモンスターが正真正銘の怪物であるという事実は、信じて疑わない。


「そうでしょう!!!」


「ん~~~。でもさ、パーティーの強さとか見ると、別にAランクモンスターとの戦闘が危険であることには変わりないけど……生命力? を力や再生力に変えられる様な個体じゃなければ、そのまま倒せそうだったんだよね」


「…………そうですね」


タラればの話ではあるが、あのままイレックスコボルトが生命力を放出しなければ、メリルがぶち込んだ毒が回り、シュラやセルシアの攻撃も当たる様になり、後は詰将棋の様な形になって戦闘を終わらせられた可能性は高い。


「その後、メリルさんも一人でBランクモンスターのケルベロスを倒しちゃったんでしょ」


「あれに関しては、ケルベロスが思ったよりもバカだからこそ、一人で討伐出来た様なものですわ」


身体能力に関しては、未開拓地……地下遺跡に生息している個体ということもあり、メリルの予想を少し上回っていた。


だが、本当に……予想以上に頭が悪かった。


「そんなにバカ個体だったの?」


「えぇ。全く三つの頭で意思疎通が取れてない状態でしたわ。最後の私が体内に流し込んだ毒を、全身を燃やして熱消毒する行動には驚かされましたけど」


嫌な記憶、蘇る。といったところではあったが、全身を……体の内側を燃やし尽くしたことで、ケルベロスの身体能力が低下。


結果、毒の効果がなくとも仕留められた。


「……あまり、上から言える立場ではありませんけど、私はメリルさんの実力あってこその功績だと思います」


それは嫌味などではなく、ファールナの本心だった。

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