まだ俺達も若い
「技術力の平均値は、それなりに高い。ですので、これからも鍛錬を怠らず、頑張ってください」
「っ!!?? くっ……参りました」
喉元に剣先を添えて、決着。
結局メリルは最後まで毒と糸を使わなかったなぁ……試合って言うより模擬戦だし、それも当然か。
ファールナが知ればテンションガタ落ちしそうだけど、それらを使ったら評価する間もなく終わるしな。
「お疲れ、メリル」
「彼女にも伝えましたが、全ての面において技術力の平均値が高かったと思います。このまま成長すれば、優れたバランサーになるでしょう」
「試合中はボロクソに言ってたのに、評価は意外と高いんだな」
「彼ら、彼女たちの態度に多少イラついていたのは認めます。しかし、それとこれとは別です」
仕事に私情は挟まないってことか。
本当に出来るメイドだな~~~。
「次は、私の番、かな」
「そうだな。それじゃ、こっちはセルシアだ……つってもあれだぜ、セルシア。あんまり激しく戦ったらダメだからな」
「うん。解ってる、よ。ちゃんと、上手く、手加減、する」
「っ……随分と余裕みたいですね」
やっぱり怒るというか、イラつくよな。
自分でちょっと煽ってるセリフを言ってる自覚はあるから、謝りはしない。
けど、多分だけどセルシアって俺たちの中で、一番手加減が苦手だから、一応伝えておきたかったんだよな。
この戦い、当然俺たちが全勝しなきゃいけないのは間違いないんだけど、あんまりそちら側の心が折れて、向上心が消えてしまうのは宜しくないからな。
「私は、強いから」
……意図せずナチュラルに煽っていくな、セルシアさん。
「それは、僕も同じですよ」
あっちの人族……ヴェルデだったか?
雰囲気的に、俺やセルシアに似てる様な部分があるけど……でも、エスエールさんから教えられたのは名前だけで、苗字はなかったよな?
でも、学園生活を送った経験から、ある程度貴族とそれ以外の人物が持つ雰囲気の差には気付けるようになった筈……だから、勘違いではないはず。
もしかして……父親は貴族だけど母親は平民で、側室にならなかったパターンか?
そういった形で子供が生まれるのは珍しくないらしいしからな……とはいえ、そういうケースで生まれたんですか? なんてヘビーな問題にいきなり突っ込めないから、確認出来ないけど。
「結構自信満々みたいな感じっすけど……どうなると思うっすか?」
「使う得物が双剣なら、手数は向こうの方が多い。パワーよりもスピードタイプだから、ピッタリの得物なのは間違いないだろうけど……セルシアと戦うってなると、やっぱり相手が悪いと言わざるを得ないかな」
既にセルシアとヴェルデはバチバチに斬り合っている。
正確には……ヴェルデが果敢に攻めているけど、セルシアが冷静に対処して……徐々に細剣で受けたりずらすことなく、回避し始めている。
「くっ!! まだだッ!!!!」
風を纏ってスピードアップ、か。
双剣という武器を考えれば相性抜群なのは当然なんだが、顔と声に出過ぎだな。
「何と言いますか……やはり、全体的に青いですね」
「メリル、それは否定しないんだが、俺らそういう言葉を使うほど老けてないよな」
「それはそうなのですが。本気で勝ちたいと思っているのであれば、さすがに声には出さない方が良かったかと」
まっ、それは確かにそうなんだけどな。
セルシアは明確な差を見せ付ける為なのか、わざとヴェルデの攻撃を紙一重で避ける様に動いていた。
だからこそ急に風の魔力を双剣に纏えば、大ダメージを与えられずとも、もしかしたら肉まで斬れたかもしれない。
二人の差を考えれば、真面目に大金星と言える内容なんだが…………メリルの言う通り、若さが出てしまったってことか。
「それなりに双剣技の腕があるみたいっすけど、大逆転はなさそうっすね」
「……油断は良くないけど、多分そうだな」
会話通り、約一分後にはセルシアがヴェルデの双剣を弾き飛ばし、決着が着いた。
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