旅立ちはゆっくりと

「それじゃ、ようやくスタートだな」


「うん、ようやく、スタート、だね」


ロウレット公爵家の方々との交流が終わり、ようやく目的の街……ノールスへと出発。


一部の使用人たちが盛大に見送ろうと計画したそうだが、それを聞きつけたセルシアがバッサリと拒否したため、出発はスムーズに目立たず……うん、一応目立たずにできた。


「しかしラガス坊ちゃま、早速ですが一つ懸念点があります」


「いきなりどうした?」


「屋敷での休養、更にセルシア様のご実家での休養。二つの休養が重なったことで、ファイルトロールが既に討伐された可能性がございます」


「……だよな」


一応、現時点ではそういった情報は入ってきていない。


とはいっても、この世界での情報伝達の速さを考えれば、まだ俺たちの耳に入っていないだけで、既に討伐されてる可能性は十分にある。


「しかし、ロウレット公爵様がラガスさんに伝えた様な個体であれば、まだ討伐されてる可能性は低いんじゃないか?」


「その可能性は否定出来ません。しかしシュラ、その可能性がどれだけ低いかは解っているでしょう」


そうなんだよな~。

メリルの言う通り、そもそもファイルトロールが群れをつくる例もあまり多くはない。


そこに群れのトップが二体いる群れなど、そうそう見つかる訳がない。


「そもそもファイルトロールはBランクのモンスター。出現すること自体が珍しいのです」


「分かった分かったっての。でもよ、それならちんたら歩くよりも、走った方が良いんじゃねぇのか?」


「それを判断するのはあなたや私ではなく、ラガス坊ちゃまです」


メリルがそう言うと、全員の視線が俺に向けられる。


「俺としては、最初ぐらいはのんびりこう……旅ってのを楽しみたい感があるんだよ」


「……なるほど。それはちょっと解らなくもないっす」


「おっ、それは良かった。まっ、強い魔物なんて処理が行き届いてない森に入ればそれなりにいるさ」


世の中、全ての場所にハンターや騎士の手が届くわけではない。


そういった森は魔の怪林とか呼ばれてる場所が多いが、基本的には場所の名前負けしないモンスターが生息してる。


迷った時は、一番近いそういう場所に向かえば、とりあえず戦闘欲は解消される。


「とにかく、ノールスまでは歩いていく」


歩いての行動とはいえ、スタミナはバリバリあるので、食事休憩以外は殆ど歩いている。

一日の間でそれなりに進むことが出来るため、そこまでの時間は掛からない筈。


日が暮れれば野営を始め、夕食を食べたらしっかり風呂にも入る。


見張に関してはルーフェイスが任せてくれ!! って言ってくれたんだが、二人は短時間の間でも見張りを行うと言い続けた。


「はぁ~~、分かった。その頑固さは二人の俺たちに対する心配だと受け取っておく。ただし!! きっちり睡眠はとれよ」


「えぇ、勿論分かっています」


「うっす、了解っす!!」


……とりあえず二人の宣言を信じ、セルシアと一緒にテントの中に入り、ベッドで睡眠を取った。


翌日の朝、二人の表情を見る限り……睡眠が取れていない訳ではなさそうなので、一先ず何も言わなかった。


「……何か、俺らを狙ってる奴らがいるな」


シュラの言葉に、ルーフェイスがこくりと頷く。


シュラの奴、感知力は俺やルーフェイス方が上なのに、独特の勘? が鋭くなってきたな。


「モンスターか?」


「多分モンスターだと思うっす」


言葉通り、現れたのは数体のハーピィだった。

ただのハーピィではDランクということもあり、大した相手にならないため、各々が遠距離技を放って一瞬で終了。


その後もちょいちょいモンスターに襲われることがあり、一度だけ盗賊にも襲われた。

どうやら俺たち四人の内二人が女性だからって、気を抜いていたようだが……全く、アホだな~。

うちの女性陣はそこら辺の男よりも断然強いのに。


一回だけ街の宿に泊まりながら旅すること約六日後、ようやく目的の街であるノールスに到着。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る