骨が折れる、らしい

実家への休暇が終わった後、当然と言えば当然だが、今度はセルシアの実家へと向かう。


屋敷ではセルシアの卒業を祝うパーティーが行われた。

セルシアの顔を見る限り、事前に告知はされてなかったんだろうな。


俺も知らなかったし、学園を卒業したという事に関して、そこまで祝うか? という疑問はある。

ただ……公爵様たちからすれば、祝いたくなる出来事なんだろう。

セルシアも黙ってパーティーに参加した。


「ほぅ、ファイルトロールに挑むのか」


「自分たちがノールスに到着するまでに誰かが討伐するかもしれませんが、それでも向かう価値はあるモンスターだと思うので」


「うむ。その価値はあるだろう。私も過去に何度か戦ったが、どの戦いも手汗握るものだった」


現在、娘に祝いの言葉を全て伝えた公爵様と俺は、テラスでワインを呑みながら今後について話し合っている。


にしてもこのワイン……赤ワインは個人的に少し呑みにくいと思っていたが、無茶苦茶吞みやすい……ボトルで幾らするのか訊くのが怖いな。


「して、今回は君がメインで挑むのか?」


「とりあえずはその予定です」


「そうか……ファイルトロールは、稀にツートップの体制で群れをつくることがある」


「っ!? それは、本当ですか?」


そんな話、初めて聞いた。

そりゃ隅々までファイルトロールについて調べた訳じゃないが、父さんたちからも聞いたことがない。


「本当に極稀に起こる話だ。ただ、私はその極稀に遭遇したことがある」


「……やはり、苦戦を強いられましたか?」


「君たちなら問題はないと思うが、可能なら分断するべきだ。一人であのコンビネーションを対応するのは、骨が折れる」


「っ!!??」


思わずまだワインが入っているグラスを落としそうになった。


トロールやオーガ、オークといった人型のモンスター同士がコンビネーションを取ることは珍しくない。

だが、ロウレット公爵様ほどの方が、そのコンビネーションに対して、骨が折れると確かに口にした。


「そんなに意外な情報か?」


「公爵様が骨が折れると言うほど優れたコンビネーションを持っているとなれば、少なからず驚きますよ」


「はっはっは! 安心しろ。君一人が強い訳ではない。例えその群れと遭遇しても、負けることはないだろう」


……やっぱり、メリルたちが褒められるのは嬉しいもんだな。


この後、少々赤ワインを飲み過ぎてぶっ倒れた。

気付いたときには知らないような知ってるような天井状態。


テラスでぶっ倒れたのかと思ったが、どうやら自力で部屋には戻ることが出来たらしい。


小さな頭痛に悩まされながら着替えてると、ノックして入ってきたセルシアの弟と妹であるフォースとリッシュに模擬戦を申し込まれた。


とても活き活きとした楽しそうな表情を浮かべていたが、さすがにもう少し後にしてくれと返す。


まだ朝飯を食べてないし……なんなら、珍しく朝風呂に入りたい気分。

メリルにそれを伝えると、既に覚えたであろう風呂場へ連れていってくれた。


他のメイドさんたちも交えて、お背中流しましょうと言いながら付いてこようとしたが……なんとかギリギリのところで抵抗に成功。

やはり酔いと、その後の頭痛は恐ろしい。

もう少しでメリルのいたずらに押し切られそうになった。


入浴後は朝食を取り、双子に頼まれた模擬戦の相手を引き受ける。

解ってはいた事だけど、以前模擬戦を行った時と比べて、全てのステータスは確実に一段階向上していた。


本当にロッソ学園に入学するなら……他の学園が可哀想としか言えない。

他学園の方から、入学前に是非うちの学園にご入学を!!! って勧誘されそうだな。


まぁ、別に俺やセルシアの方からロッソ学園に入学を勧めてるわけではないし、どうやら公爵様や奥さんの方からロッソ学園への入学を勧めてるわけでもないみたいだし……もう、そうなったらそうなったらで仕方ないって話だな。

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