それなりに負けず嫌い

「どうやら、今までにラガス坊ちゃまから一本取れていないのが、悔しいみたいですよ」


その日の夕食後に、メリルがセルシのテンションが少し低い理由について教えてくれた。


「そうなのか……そういう理由なら、俺に出来ることはないな」


「そうなりますね。ラガス坊ちゃまはそれなりに負けず嫌いですからね」


「ま、まぁそういう部分は否定出来ないな」


模擬戦という、何も懸けていない戦いであっても、やっぱり同世代の人に負けるのはな……というか、だからといって手を抜いて戦ってセルシアを勝たせても、それはそれで絶対に納得しないだろ。


「仮に手を抜いたところで、それはそれでセルシアは怒るだろ」


「百パーセント怒るかと」


「だよな~」


いや、いつも模擬戦では全力を出さない様に動いてるよ。

そんな全力で動いてたら、地面が禿げ上がって特別寮や校舎に傷を付けてしまう。


そういった事情から、模擬戦の中で出せる範囲の力でいつも戦ってる。


「でもさ、セルシアには紫電崩牙があるだろ。あれも含めて、セルシアの全力だと思うんだよな」


「……その考えは否定しませんが、そうなるとラガス坊ちゃまもかなりパワーアップしてしまいますよ」


「それは……そうだな」


オーガジェネラルの一件で多数の貴族が送ってくれたプレゼントの中にある武器以外にも、業物と呼べる武器を幾つか持っている。


「パートナーだからこそ、いざという場面で足手纏いになりたくないそうです」


「いざという時の場面、か」


キリアさんとルーンもその辺を考えて、卒業後は屋敷に戻るって言ってたけど……セルシアの場合は、そんな心配は殆どいらないと思うんだけどな」


「心配し過ぎ、と思う俺はおかしいか?」


「いえ、私としてもセルシア様は少し心配し過ぎでは、と思ってしまいます」


「やっぱりそうだよな」


そりゃハンターになってからは、基本的に強い奴と戦うことを目標に旅するつもりではある。


でも、いきなりSランクの超超超怪物に挑もうなんて思ってない。

てか……セルシアの紫電崩牙なら、そんな怪物にも十分ダメージを与えられそうだよな。


「つっても、そこら辺を俺らでフォローしても意味無いよな」


「そうですね。全く意味がないかと」


そんなに意味がないか……自分で言っておいてあれだが、それはそれで悲しいな。


「……そうだ。どうせなら、今度騎士団にセルシアを連れて行くか」


「絶対にスカウトされると思いますよ」


「それに関しては絶対に断るだろ。とにかく、現役の騎士たちと戦ってみれば、その低めな自信……自己評価も変わってくると思うんだよ」


という訳で、翌日……三年生たちが入団試験を終えた次の日に騎士団を訪問。


アポ取ってはいなかったが、既に顔見知りの騎士の方があっさりと訓練場に通してくれた。


「よぉ、ラガス。それにセルシア」


「いきなりすいません」


「どうも」


「気にすんな。ゆっくりうちの連中たちと剣をぶつけ合ってくれ」


今日は俺がメインではないが、それでもここの来たのであれば、模擬戦に参加しない訳にはいかず、軽く体を動かし始める。


「よう、ラガス」


「こんにちは」


準備運動をしてると、これまた騎士団に通うようになってから仲良くなった騎士の内の一人が声を掛けてきた。


「あれが、お前のパートナーか……ここに連れて来るのは初めてじゃねぇか?」


「そう……ですね」


言われてみればそうだな。

公爵家の令嬢だけど、元々呼ばれてたのは俺だけだったからな。


そう考えると、今日は割と無意識に無茶というか……横暴したか?


「強いのは偶に大会での戦いっぷりを観てたから知ってるが、なんでまた急に?」


「簡単に言うと、自分の実力を冷静に確認してほしいからですね」


「…………ん? いまいち解らねぇな。まっ、とりあえず強いのは解ってんだから、手加減する必要はねぇよな」


この人なら、模擬戦の範囲でならセルシアに勝てるだろうけど、さてはてもっと若い騎士たちはどうかな。

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