よそ見厳禁

「……なぁ、お前の彼女ヤバいな」


「彼女というか、パートナーですけどね」


いや、パートナー関係になった人たちはそういう関係になるらしいけど……って、それは今考えることじゃないか。


「というか、大会で俺とバチバチに戦ってたんですから、正直……新人騎士の大半には負けないと思いますよ」


「はっはっは! そうみたいだな。目の前で五人抜きもされたら、お前と同じでぶっ飛んだ逸材だって認めるしかねぇよ」


騎士団に入団した騎士たちは現場に出て、実戦というまで経験を積んでるから、普通はそこで学生と差が出ると思われるだろうけど、セルシアの場合は違う。


休日になれば王都から出て、モンスターとソロで戦うことも珍しくない。


平日は授業が終われば俺たちと毎日訓練やら模擬戦を行ってるから、経験値が騎士団に入団した元学生と比べて広がったってことはないと思う。


まっ、今のところセルシアと戦った騎士の人たちは、そこら辺を理解してなかったから、戦う前は表情に余裕があったんだろうな。

そりゃシングルスの大会では全部俺が勝ってきたけど、言い換えればセルシアも決勝に辿り着くまで、多くの強者を倒してきたんだ。


学生の内は負けていても、騎士になって経験を積んだから今回は勝てる!! っていう希望的観測が通用する相手じゃない。


「俺やシュラ、メリルたちと殆ど毎日模擬戦してますからね」


「なるほどな。一ミリでもあいつらが油断してたら、絶対に勝てないな」


あっ、また勝った。


一応模擬戦の範囲内だから、命を懸けた勝負ならまだ解らない気がするけど……殺す気全開のモンスターと戦っても勝利を収めてるし、それは考えるだけ無駄か。


「でも、そろそろ限界が来そうだな」


その言葉通り、中堅の騎士との戦いでは、ついにセルシアが負けた。


見た感じ、剣技だけじゃなくて身体能力でも一歩先を行かれてるっぽいから、縛りがありだと厳しいか。

にしても……同じ騎士が勝ったってのに、セルシアに負けた新人騎士たちは案外盛り上がらないな。


「はっ!!!!」


って、模擬戦中にあまりよそ見をするのは良くないな。

対戦相手の騎士に失礼だ。


顔見知りの騎士と喋っていたら、以前模擬戦を行った騎士に再戦を申し込まれたので応じていた。

以前の一戦からそこまで時間が経ってはいないが、動きが僅かに修正されている……気がしなくもない。


とはいえ、よそ見をしたから負けたとか、メリルに知られたら絶対に説教を食らう。

気合を入れ直し、細かいフェイントを入れながら、今回は模擬戦の範囲内の全力で勝利を奪いにいった。


「うっ……参った」


「ありがとうございました」


「こちらこそ、ありがとう……はぁ~~、もう少し善戦できると思ったんだけどな」


上から目線になってしまうので言わないが、俺の記憶が正しければ、前回よりも良い戦いをしたと思う。


「それにしても、ラガスのパートナーのセルシアさん、かなり凄いね」


「ふふ、でしょう」


いかん、解っていても顔が緩んでしまう。


「そりゃラガスの世代では、ラガスに続く実力者というのは解ってたけど、模擬戦という枠の中で、もう何人の騎士が負けた?」


「えっと…………多分、十人は超えたかと」


「それぐらいやられてるよね。普通はあり得ないというか、僕たちからすれば騎士としての立場がないんだけど……この差は何かな?」


セルシアが大きな才能を持ってるのは間違いないけど、そういう答えを持てめてる訳じゃないよな。


「多種多様な武器を使う人物との戦闘経験と、後は自分の従魔とも戦ってるんで、どんな相手でも対応出来る柔軟力……ですかね?」


「そういえば、強い狼系の従魔がいるんだったね。日頃からモンスターと模擬戦が出来る環境か。それは騎士団にない点だね」


……いや、一応差の一つでしかないと思うんで、あまりそこら辺は深く検討しない方が良いと思いますよ。

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