本当に質が悪い

「ご馳走様。美味しかったよ」


「そりゃ良かった」


堅苦しい話が思った後、それなりに楽しいことについて話した。


まぁ……随分会話選びには迷ったけどな。


「いつか、絶対に返すよ」


「別に良いって…………そうだな、俺が困った時に、一回だけ手を貸してくれれば、それで良い」


「分かった。どんな難題でも、君に協力を惜しまないよ」


……普通なら、いつかその時が来たら、それはそれで面白いって思うんだろうな。


でも、互いに学園を卒業すればハンターになる。

なるけど……ライドとは、本当にいつか出会えるか?


ポテンシャルだけで言えば、俺やセルシアと大差ないと思う。

神に貰ったスキルを抜きにすれば……将来的に並ばれてもおかしくない。


けど……世の中、どんな天才でも伸びる時期にその才を伸ばさなければ、その才を腐らせることになる。


「…………ライド」


「ん?」


別れ、背中を向けたライドに、無意識に声を掛けていた。


「っ…………ハンターとして、悔いがない人生を進めよ」


もう、普通の幸せは掴めないだろう。


それなら……せめて、ハンターとして悔いがない人生を送って欲しい。

そう、思わずにはいられなかった。


「……君は、本当に優しいね。ありがとう、ラガス」


再度見えた背中に、もう会えないであろう予感を感じた。


会えたとしても……その時は、お互いに別のステージ立っている筈。


「はぁ~~~~…………悲劇のヒロインどころか、とんだ悪女だな」


何かされたわけではない。


俺個人には迷惑もくそもない。

本当にただの他人だ……でも、思わずにはいられなかった……死ね、と。



「おかえりなさい、ラガス坊ちゃ、ま…………何か、なさるつもりですか」


「? 何かって、何をだよ」


「殺人をです」


特別寮に戻ってくるなり、いきなりとんでもないことを言われた。


「そんなこと、する訳ないだろ」


「そうですか? それならば良いのですが」


「……そんなに、ヤバい顔してたか?」


鏡を見ないと、自分がどんな顔をしてるか分からない。


「帰ってくるまで、道行く人たち全員がラガス坊ちゃまを避けたでしょう」


「…………そう、だったかもしれないな」


ちゃんと覚えていない。

帰り道までの光景なんて覚えてないけど……そうだったかもしれない。


「何があったのですか?」


「何だろうな……特に、何か面倒なことがあった訳じゃないんだ」


そうだよ。

別に、俺には殆ど関係無い話なんだ。


でも……なんだかなぁ。


「それでも、殺意が湧くことを思い出してしまったというか……自分には殆ど関係無いことではあるけど、本当に……誰かを殺してやりたいと思ったな」


実際に殺したところで、ライドがその呪いから解放されることはないと思う。


ないだろうけど、それでも殺意が湧いてくる。


「ラガス坊ちゃまにそうまで言わせるかたがいるとは……あの王子様以上の馬鹿で屑な者が客だったのですか?」


「いや、客は至極真っ当な人だったよ。ただ、関係者がメリルの言う通り馬鹿で屑……質の悪い屑と言えば良いのかな」


こんな事、ライドの目の前では言えない。

言えない、が……もう特別寮なんだし、胸の内に納めなくても良いよな。


「あぁ、そうだな。本当に質の悪い屑だ。今すぐにでも、存在事消してやりたいとすら思う」


「っ……でも、殺らないのですね」


「当たり前だろ。本当に殺したいからって殺してたら、人として終わってるよ」


ディーザスの奴らを使えば、俺の指示があったと悟られずに殺すことは不可能ではないだろう。


だとしても、ライドは確実に悲しむ。

リーベも……過去に愛した人間が亡くなったと解れば、少なからず悲しむだろう。


あいつの両親は……やらかした事が事だから、怒りをぶつけるだけかもな。


「はぁ~~~~~~~…………悪い、風呂に入っても良いか?」


「えぇ、構いませんよ。少々お待ちください」


何かをサンドバッグにして殴り潰したい気分だけど、今日は完全休息日だと決めている。


一先ず、湯に浸かって心を落ち着かせよう。

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