これまでの重みや価値
「ラガスは、本当に優しいね」
「……今回の一件に関しては、大半の者が俺と同じ考えの筈だ」
別に俺の考えが特別優しいって訳じゃねぇ。
客観的に考えても、ライドは被害者に近い立場なんだ。
勿論、ザックスたちのことを想っての優しさでもある。
それを踏まえても……俺は、ライドは被害者だと思ってる。
「ありがとう。そう言ってくれるのは、本当に嬉しいよ……でも、もう大半の人たちは、逆の考えを持つでしょ」
「ッ……そう、かもな」
反論出来ない。
俺が口にした言葉の内容を考えれば、そう言い返されても仕方ない。
「情けないけど、ラガスの言う通りにしようかと考えたこともあった……正直なところ、そっちの方が幸せになれる未来がみえた」
っ、なら……なんでそっちに行こうとしないんだ! と言いたい。
言いたいが、もう……さすがに解ってしまう。
俺がいくらそちらの道に進んでもお前は悪くないと伝えても、その考えが……意思揺らぐことはないと、目が語っている。
「でも、もし……そっちの未来に進んでしまったら、あの決闘まで前に前にと進み続けてきた僕の努力や思い、信念を否定してしまうことになる」
「…………それは、間違いないな」
平民がどうにかして貴族の令息に勝とうと、努力を積み重ねてきた。
細かい事情は分からずとも、普通に考えてそれは無理だ。
それぐらいはライドも解っていただろう……けど、こいつはその小さな希望を捨てず、最後の最後まで抗い続けた。
才能があったから、あそこまでリーベを追い詰めることが出来た?
そう思う者もいるだろうが、基本的に覆せない差に絶望しないやつが……この世に何人いる?
才能があっても、覆せない差が身分や権力だ。
才能があっても……ライドは俺みたいに得た能力や才能、意識みたいな部分がチートじゃない。
……だからこそ、そこまでの道のりを否定出来ないん、だよな。
「多分、そっちの道に進んで、今抱えている苦労を捨てて楽になっても、ふとした瞬間……その苦労を思い出すと思う」
「そこで罪悪感を感じて、日常生活に支障が出るかもしれない、ってところか」
「うん、そうなるかもしれないとも考えた。そうなれば、結局ザックスたちに迷惑を掛けることになると思うんだ」
「…………」
これも、否定出来ないな。
アザルトさんを捨て、ザックスたちとハンターになる道を選んだ場合……過去が、ライドにとって呪いに近いものになるかもしれない。
くそっ、そこまで深く考えられてなかった。
そもそもアザルトさんを捨てれば、メンヘラストーカーと化して、ザックスたちに危害が及ぶかもしれない。
どのみち……ライドが良い意味でハンター人生を歩める道はないってことか。
「そうなったら、僕は死にたくなると思う……いや、これに関しては僕のメンタルが弱いだけかもしれない。でも……結果的に、迷惑を掛けてしまうと思う。だから、ザックスたちとの道には進めない」
そんな事はない、って言葉が言えないのが……こんなにも辛いとはな。
「それに、フィーラと一緒に進む道を進まなければ、あの決闘で情けをかけてくれたリーベさんのこれまでをも、否定することになってしまう。それだけは……出来ない」
「…………そうだな。俺の考えが、浅はかだったよ」
そうだ、もしライドがアザルトさんを捨ててしまえば、あの時までリーベが積み重ねてきた努力や想いはどうなってしまう?
リーベもライドの現在の立場に理解はあるだろう。
それでも……複雑な気持ちになるのは間違いない。
「そんなことはないよ。ラガスがどれだけ僕や、ザックスたちの幸せを願ってくれているのか、良く解った。本当に、その気持ちだけで嬉しいというか、救われるというか……大分、気持ちが楽になったよ」
「そっか……それは良かったよ」
良くない、良くない、良くないけど……これ以上、ライドやリーベのこれまでを踏みにじるような言葉を、口に出せなかった。
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