そっち、なのか?

「……ザックスたちと別れて、フィーラと二人でハンターになるよ」


「…………えっ」


全く逆の答えに、数秒ほど固まってしまった。


だって……えっ? なんで? どうして?

普通に考えて……いや、色々と普通じゃなかったから、あんな決闘が起こったんだよな。


でも、だとしても…………なんで、そっちの道を選んだんだ。


「ライドは、それで良いのか?」


「うん、そうだね。ザックスたちと別れるのは、正直辛いよ。でも……一緒にハンターとして活動していれば、必ずどこかで迷惑を掛けてしまう」


「そりゃ……」


何も反論出来なかった。


アザルトさんが借金を返すには、一発当てる……というギャンブルを意識したハンター人生を送ったとしても、返せるかは分からない額。


ハンター生活を送っていれば、多くの場面で金が必要になる。

というか、上を目指してより金を稼ぐには、自分たちに投資しなければならない。


「だから、卒業したらハンターにはなる。でも、ザックスたちとは別れるよ」


「……ライド、俺はお前がアザルトさんから逃げたとしても、卑怯者や薄情者だとは思わない」


人によっては、そう思う者もいるだろう。

ただ、アザルトさんがライドに隠してた秘密は、あまりにも大き過ぎる爆弾だ。


隠しててごめんなさい、で済む内容ではない。

ていうか……アザルトさんはちょっとでも、ライドに自分と別れようとか、自分一人でなんとかするとか、そういう意志を見せたのか?


…………ヤバい、色々と腹が立ってきた。少し落ち着かないと。


「金ってのは、生きていく上で非常に重要な……なくてはならない存在だ」


原始人みたいな生活をするならまだしも、そうじゃないだろ。

ハンターになるんだろ、ライド。


「殆どの職業にも言えることだとは思うが、上を目指すなら……余計に金が掛かる。お前、素手で戦うタイプじゃないだろ」


「まぁ……そうだね」


多少自身があるのは、表情を見れば解る。

筋肉も二年前と比べて付いてるし、それなりに出来るだろう。


確実にレベルが上がってる……でも、打撃戦に限っては今もリーベの方が上だろう。

限界突破のアビリティレベルも上がってるだろうが、それはリーベも同じだ。


なにより、一番の武器はロングソードを使った斬撃だろ。


「武器に投資できなければ、どうしても不運が訪れる可能性が高まる。他にも要因はあるが……はっきり言って、まともに返済出来るか分からないぞ」


正直……アザルトさんと別れて、ザックスたちとパーティーを組みながら、自身の取り分から本来はアザルトさんの借金を一緒に返していく。

それなら、まだ借金を返済できる可能性がある。


でも、アザルトさんと二人だけで行動するなら……物事に絶対がないのは解ってる。

解ってるけど、俺個人としては……絶対に返済不可だと思ってしまう。


何故かって?

ライドの性格上、絶対にアザルトさんが危機に陥れば、助けに行く。


そして、アザルトさんの正確な戦闘力は知らないが、一年生の頃にチラッと見た時は……正直、どうだろうって感じだった。


才能に関しては、絶対にライドより下。

努力に努力を重ねて、絶え間なく実戦を重ねていけば……ブロンズランクには辿り着けるかもしれない。

一応貴族の令嬢ではあるしな。


ただ、そこに辿り着く為にはやっぱり、自身が装備する武器にも投資しなきゃならない。


強くなるために、より稼ぐために自分たちに投資する。

このサイクルを行えなければ、あの大借金を返すなんて、到底不可能。


リーベの親父さんとしては、売った方が儲かるのでは? なんて考えが浮かんでもおかしくない。


「もう一度……何度でも言うぞ。お前がアザルトさんから逃げたとしても、俺はお前を卑怯者薄情者だと思わない。その判断は間違ってないと断言する」


そうだ、何度でも何度でも言い続ける。

それで少しでも考えが揺らいでくれるなら、何度だって言い続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る