良い思い出のまま……

ライドの覚悟を聞いた一件から数週間後……また、俺に客が来た。


その人物は、ザックス。

先週俺の元を尋ねてきたライドの友人であり、俺の友人でもある。


俺を訊ねてきた内容とは……まぁ、当然と言うか、先日の一件を関係している。


「俺は、どうすれば良いんだ」


「…………本当に、難しい問題だな」


話の内容が内容なので、今回も個室があるカフェで話し合い。


「俺は、俺はあいつの友達なんだ……でも」


個室に入ってから、もう五分は経っている。

ザックスの気持ちや考えに関しては、あらかた聞いた。


聞き終えた結果、ザックスも大人になったのだと感じた。


勿論、諸々の事情をライドから聞いたというのもあるだろうが、それでもライドやアザルトさんの判断は、絶対に間違ってなかった!!! と断言はしなかった。


「俺は、レイアやミリアの仲間でもある」


「そうだな」


幼馴染で、今は同級生である二人とハンターになるという気持ちは、今でも変わっていない。

当然、二人の気持ちも当時から変わっていない……ザックスと同じ内容で悩んでそうだけどな。


「なぁ、ラガス……俺は、このままダチを見捨てても良いのか?」


「俺としては、見捨てるというのは、違う考えだと思う」


どんな言葉を伝えれば、ザックスが納得出来るのか解らない。


それでも、ダチが困ってるんだ。

何も話さないわけにはいかない。


「……ハンターになれば、金が掛かる。それはもう、十分解ってるだろ」


「あぁ、そうだな。無駄遣いすることが減ったよ」


「俺は……あれだが、金に関しては大人とか子供とか関係無く重要で、生きていく上に欠かせない。ザックスたちがハンターとして成長すればするほど、更に重要性が増してくる」


一定のランクになるまで、お金を稼いでは武器や防具にアイテムなどに投資して、まあ稼いだお金を投資しての繰り返し。


ザックスたちが、ハンターとしてどの程度の高みまで目指すのかは知らないが、そう簡単に上を目指すのをリタイアするとは思えない。

上を目指せるだけの実力と潜在能力があるしな。


「……金、という理由で友人との縁を切っても、良いのか?」


「金の切れ目が縁の切れ目、とも言う。お前たちの関係を考えれば少し違うと思うが……ザックス、お前はお前自身よりも、レイアやミリアを大事に思ってるから、ここまで悩んでるんだろ」


「っ! はは、全部お見通しか」


「俺だって、お前のダチだからな……だからこそ、ライドには申し訳ないと思うが、俺はお前たちが三人でハンターになってパーティーとして活動することに賛成だ」


本音は、ライドが心を鬼にして質の悪いクソ令嬢縁を切って、ザックスたちと一緒にパーティーを組んで欲しいと思ってる。


「お前が、俺たちのことを想ってくれてるのは嬉しいよ……なぁ、これ以上俺や二人がライドの事を考えるのは、あいつにとって重荷になるのかな」


「…………ザックスたちにとって残酷なのは解かってる。ただ……もう、割り切った方がライドの為であり、三人の為にもなる」


「っ!!!」


……そんな泣きそうな顔するなよ。

俺まで泣きたくなるだろ。


「ライドとの思い出は……良い思いでのまま終わらせた方が良い。無理にパーティーを組んで活動しても、どこかで破滅する。そうなるのは……眼に見えてる」


ザックスたちが本当にライドを親友だと思ってるからこそ、どこかで最悪な形で破滅するのは確実。


縁を切って、良い思い出にするためには、今しかない。


「ザックス。お前がライドとの縁を切っても、俺は……俺だけはお前を、お前たちとを薄情者だと、卑怯者だとは思わない。というか、そんな何も知らずにへらへらとバカにしてる奴らがいたら、殴り飛ばす」


「……ぶはっはっは! もうちょい、自分の立場を考えて行動しろよ」


「それは理解してる。でも、それとこれとは話が別だ」


空元気なのか、ツボだったのかなんて分からない。

それでも……目の前でザックスが笑ってくれて、ほんの少し体が軽くなった。

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