体験したことはないが

「いやぁ、その……ブリットが、ちょっとね」


ん? あのバカ王子が、何かやらかしたのか。

もしかして……あの時みたいに、室内で暴れたとか? 仮にそうなら、マジで大問題というか、色々隠し切れないというか……本当に人生終わるぞ。


「また、暴れたの?」


セルシアのストレートな言葉に、四人は顔を横に振った。


「いや、暴れてはいないよ。それよりは大丈夫というか、大丈夫ではないんだけど……うん、大事にならず片付けられる……のかな?」


「曖昧な答えだな」


身内で処理できそうだけど、危ない状態ってことか。

首つり自殺でもしようとしたのか? それは確かに、外部に漏れたら一大事だろうけど、バレなければ問題無い、か?


「その、ブリットが急に自分の手首を切り始めたんだ」


「っ!!!???」


フォロスが教えてくれたバカ王子の現状に、俺は絶句した。


だって……それって、リストカットだろ!!!???

あのバカ王子がリストカットって……マジでか。


「……どういうこと?」


「あの王子様は、自分の体を自分で傷付けてるんだよ」


「それ、は……気でも、触れた?」


「「「「「…………」」」」」


な、なんと残酷な事を言うんだ。

言いたくない……というか、別にセルシアは悪くない。

そう、悪くないんだが……そうなった原因は何かと尋ねられると、セルシアなんだぞ。


本当に悪くはないんだけどさ。


「どうしたの?」


「い、いや。なんでもない。しかし、そんな事が起こってたのか」


「うん……その、傷自体はそこまで深くないんだ。自然治癒でも治せるとは思う」


「けど、俺たちや医師が止めろって言っても、気付いたら繰り返し行ってるんだよ」


リストカット、か。

知識としては、メンヘラがやる行為……としか記憶にないんだよな。

心理学なんて学んでないし、正直どうすることも出来ない。


ってか、本当にメンヘラになったからリストカットを始めたなら、セルシアが危ないな。


「……悪いが、俺もどう対処すれば良いのか解らない」


「そうだよね」


まだトーナメントは続くから、お互いに頑張ろうと伝え、フォロスたちとはその場で別れた。


しっかし、あのバカ王子……いよいよヤバい状態に突入したな。


「ラガス、不安?」


「そうだな。かなり不安だ。今のあいつは、本当に何をしてくるか分からない」


以前までの状態なら、絶対にセルシアを手に入れたいという思いが一番。

決して、セルシアを身体的な意味で傷付けたいという思いは、絶対に持っていなかった。


だが、今のバカ王子の状態を考えると、セルシアが手に入らないなら、殺してその後に自分も死ぬ。

そんな危険過ぎる思考を持ち始めてもおかしくない。


「私、強くなった、よ」


「うん、それは解ってる。でもな……そういうのだけで防げない危険もある……と思うんだよ」


実際、メンヘラにストーカーされたことないから断言はできないけど、ストーカー化したメンヘラが恐ろしいってことぐらいは解ってる。


そういう時に限って、普段は出来ない奇襲方法とか、格段に不意を突くのが上手くなったりすると思うんだよ。


「強さでは、防げな、い……哲学?」


「哲学というか、嫌な意味での化学反応というか、悪質過ぎる成長……とにかく、今のバカ王子は危険過ぎる状態だ」


本音をぶちまけるなら、自殺してくれた方がまっしだ。

本当に人前で言えないけど、そっちの方がセルシアに迷惑がかからない。


アルガ王国側が、リストカットする意味を深く把握してくれてたら良いんだが……このままいくと、あの時以上の国際問題に発展しかねない。


「……面倒な方向に爆発せず、恨みを俺にぶつけてくれたら、今度はもっとボコボコにして立ち直れなくさせるんだけどな」


「ラガスなら、出来る。でも、それは、それで心配、だよ」


「セルシア……ありがとな」


それでも、セルシアが狙われるぐらいなら、俺を狙って欲しいもんだ。

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