完全に予想外

バカ王子がいったいどんな方向に進んだのが……ある意味不安な思いが消えない中、それでも連日トーナメントは進んでいく。


正直……どれも同じ結果になると思っていた。

残りのトーナメントも、全ての俺が……もしくは、俺たちが勝つ。


自惚れ、傲慢かもしれないが、結局強いライバルたちは皆ガルガント王国側の者たち。

それを考えると、残りのトーナメントも、楽しめる試合はかなり限られる。


なんて思ってたが、主人と従者による三対三のトーナメント。

このトーナメントに三回戦目で、超面白い奴ぶつかった。


このトーナメントでは、毎回三人でどの面子とぶつかるかを決めていた。

俺が同じ生徒を相手することもあれば、執事かメイドを相手する時もある。


だが、この試合……俺が相手をしていたのは、執事。

当然俺より年齢は上で、鍛錬を怠っていない良い肉体を持つ執事だ。


不満はないが、満足もしない強さだった。

適当に楽しんで、適当に戦闘不能に追い込む。


メリルの方のタイマンも、ほぼ同じタイミングで終わった。


シュラの方も、あと数十秒……もしくは数秒後には終わるだろうと思ってた。

でも……全くそんなことはなさそう。


「はっはっは!!! 正直、予想外だ!!!!」


「まだまだっ!!!!」


主人である学生が、シュラを相手に粘っていた。

まだ完全に本気を出していないが、それでも互角の勝負を演じていた。


「……メリル、あれヤバいな」


「そうですね。とてつもなくヤバいかと」


だよなだよな。マジで本気で、超ウルトラヤバい。


だって……対戦相手の学生、自分の命削ってるんだぞ。


「どうした! まだいけるだろっ!!!!」


「当たり前だ!!!!!」


一度、学園に入学する前に、あれが出来るモンスターと戦ったことがある。

あの時は一瞬……一瞬ではあるが、首に鋭い刃が添えられ、死を明確にイメージした。


生命力を、己の力に変える。

アビリティにもそういうのがあるらしいが、アビリティとかマジックアイテムなしに、そういうことが出来る稀有な存在もいる。


その可能性は否定出来ないが……まさか、同じ学生にいるなんてな。

これはシュラの言う通り、完全に予想外だ。


「どうしますか、ラガス坊ちゃま。今からでもシュラと変わりますか?」


「メリル……お前、俺がなんて答えるか分かって聞いてるだろ」


「えぇ」


本当に、主人をからかうのが好きな奴だな。

もとから誰が誰の相手をするって決めてたんだ。


今更楽しそうな相手だからって、主人って立場を使って変われとか言えないだろ。


「ふんっ!!!!」


「っ!!? 良いぞ、良い一撃だ!!!」


体重の乗った斬撃をぶっ放したが、硬化した魔力を纏ってガード……人によっては、そのまま両腕がおさらばしてただろうな。


にしても、あの学生は自分の命が惜しくないのか?

それとも何かしら、このトーナメントで優勝するのに、文字通り命を懸ける理由があるのか?


「まっ、どうでも良いか」


「何がですか?」


「多分だけど、あの学生がこの試合で死ぬことはない。だから、あいつのやり過ぎによる死を気にする必要がないってことだ」


生命力ってのは数週間、一か月分だけでも消費するだけで大きな力を得られる……らしい。

ぶっちゃけ、寿命が長いエルフや竜人族とかが扱いやすい転換技術。


人間がうっかり出力を間違えれば、速攻で死ぬ。


今のあの学生は……まだやり方を覚えたばかりだからか、そこまで出力が高くない。

それでも十分強力なジョーカーなんだけどな。


「まだいけるよな!!!」


「嘗めるな!!!!」


うんうん、超楽しそうだな。

基本スペックではシュラの方が上だから、生命力を力に変えることで、ギリ身体能力で付いていけてる……扱える魔力量に関しては、ちょっと向こうが上か?


…………くそっ、やっぱり今からでも変わってもらおうか?

メリルの前でそれらしいセリフを言ってしまった手前、絶対に出来ないけど。

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