どちらにも振り切れてほしくない

『なんとなんと、勝者はレアード・リゼードだぁぁああああああああああああっ!!!! 見事に下馬評を覆したぞ!!!!!!』


司会者が拡声器のマジックアイテムでレアードの勝利宣言をすると、観客たちの盛り上がりは最高潮に達した。


二人ともぶつかるまでの戦い自体楽じゃなかったから、年齢や体格的な部分を考えて、評価は七対三ぐらいでレアードの方が不利だと思われていた。


でも、あいつは司会者の言う通り、見事に下馬評を覆した。

俺から過去の出来事を聞いていたとしても、この結果は身内という立場を抜きにしても凄いと思う。


ただ……あのフェイントに引っ掛かったということは、未だにバカ王子にとって、金的攻撃は恐怖の攻撃みたいだな。

今回の試合でそれがバレたのかどうかは分からないが……何はともあれ、両者の立場を考えれば、レアードは大金星を得た形。


バカ王子にとっては、王子様らしい成績を残せなかったから、非常に悔しい結果だろうな。


「うむ、流石ラガスの弟……いや、彼が今まで努力を積み重ねてきた賜物、か」


「そう思ってくれると嬉しいよ」


別に、レアードの事を「流石ラガスの弟」って言ってくれるのは嬉しい部分がある。

でも……俺の存在とか関係無しに頑張ってるレアードやセリスにとって、その言葉はあまり良くない筈だ。


俺だって、兄さんや姉さんたと、父さんや母さんの子供って事を関係無しに褒めてくれる方が嬉しい。


「しかし、あの王子は負けてしまったな」


「だな。まぁ、弱かった訳じゃない。どちらかと言えば、総合的な実力は第三王子の方が上だったと思う」


「そうだな。俺も弱いとは思わない……やはり、最後の攻撃が鍵となった。ということか?」


「それまでの攻撃もダメージを与えただろうけど……最後のフェイントからの踵落としが決定打になったのは、間違いないな」


観客たちからすれば、レアードが全人類の男に取って弱点である部分を狙った。

そう思ってるだろうけど、狙った理由はそれだけではなかった。


俺の身内だから出来たフェイントかもしれないけど……三年生対一年生だし、それぐらいのハンデはあっても良いよな。


「…………あの王子、自殺するんじゃないか?」


「いきなり何言ってるん、だ、よ…………そういえば」


そうだよ。

個人戦のトーナメントで優勝したら、もう一度自分との関係を考えてほしい。

そんなことをセルシアに伝えてた。


それは、セルシアや俺を倒すって宣言でもあった。

それがまさか、俺やセルシアとぶつかる前に、レアードに負けたとなれば……俺だったら、羞恥心で死にたくなるな。


レアードに労いの言葉を掛けるために移動してる中、急に冷や汗が流れ始めた。


「いや、でも王子だぞ。そんなことするか?」


「追い詰めて自らの命を絶つのに、立場は関係無いだろう」


くそ、そういえばそうだな。

そういった話が、全く耳に入ってこない訳じゃなかった。


追い詰めれば、誰であろうと命を絶つ危険性がある。


でもさ…………立場が立場の人間なら、そっちに振り切らない可能性だってあるよな。


「その可能性はあるな。でもさ、権力者なら……違う方向に意識を向けると思わないか」


「……ゼロとは言えない。だが、それこそ立場が立場だ。今回の一件故に、そんなことをすれば即刻疑われるだろう」


「だろうな。でも、振り切れた人間って、何するか分からないだろ」


俺からすれば、リーベの元婚約者のアザルトさんだって、悪い方向に振り切れてしまっていると思ってる。

普通に考えれば、破滅を辿る道なのに、躊躇なくその道に向かって走り出した。


バカ王子はあんな発言してしまった後に負けてるから、より悪い方向に振り切ってしまうと思えてならない。


その点が凄く心配になり、自然と速足になった。

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