思い付けば簡単だが

割と良い調子で戦えてると思ったが、中盤……スノーベアーが容赦なく遠距離攻撃を使い始めた。


地面を持ちあげるようにして、雪や地面の塊をぶん投げたり、鋭い爪から雪の斬撃を放ったりなど、今のイーリスにはかなり厳しい威力がある。


ボールやアローで相殺したり、アイスウォールなどでガード出来てはいる。

ただ、体力的に限界が見えてきた。


相変わらず鬼気迫る表情で攻防を行い、その壁を乗り越えようとする精神は立派というか、本気度の高さが伝わってくる。

それでも……やっぱり、リザード公爵様のことを考えると、死なせる訳にはいかない。


もう絶対に無理だと思ったら、割って入る。


魔力に関しても、もう残りが多くはないだろうからな。


「まだ、ここから……」


諦めてはいない。

ここにきてスノーベアーとの差に絶望していないのは、評価に値する部分だ。


相性の悪さもそうだが、現状の魔力や体力の差を考えれば、絶望……諦めるには十分な状況。

にも拘わらず、イーリスの目は死んでいない。


ただな~~、ここからスノーベアーに勝つには、やっぱりアサルトタイガーファングをぶち込む必要がある。


目やケツの穴にランスやジャベリンをぶち込めたら別なんだが、頭は当然警戒されてるだろうし……いや、ケツ穴に関しては警戒してないか?


それならワンチャン……でも、イーリスの魔力操作だと、ギリギリそこまでスノーベアーの警戒をすり抜けて、後方からぶっ刺すのは無理か。

良い案だと思ったが、それが無理ならやっぱりアサルトタイガーファングにたよるしかなさそうだな。


でも、あれは発動までに準備が必要だ。

スノーベアーがその隙を見逃すとは思えない。

無理矢理距離をとっても……遠距離攻撃でやられるよな。


………………いや、一つだけ方法はあるか。

ただ、これをイーリスに教えたら、あいつだけの実力にはならない。

あいつがこの方法を考え付くか……もしくは、俺が思い付いた方法以外の、討伐方法を思い付くか。


それが無理なら、もう割って入るしかない。

てか、そろそろルーノさんとリタさんの堪えが限界に来そうだ。


「はっ!!!」


「おっ!?」


おっとっと、変な声が出てしまった。


でも、まさかの俺が考えてた内容に辿り着くとは……今、イーリスはアイスフロアを発動した。


スノーベアーは雪の上での動きに関しては、イーリスより三枚も四枚も上手。

だが、今まで氷の上で動いたことはなかった。


「ッ!!!???」


よっぽど優れた天性のバランス感覚がなければ、すっ転ぶのは当然。

仮にちゃんと立つことが出来たとしても、スムーズに滑るのにはかなりの時間が必要。


俺も氷弾を使って簡易のスケート場を作ったけど、思い通りに滑れるようになるまで、かなり時間が掛かった。


頑張れば氷の上から脱出できるかもしれない。

なんなら、思いっきりスノーベアーが持つ鋭い爪に魔力を纏い、突き立てれば一発で脱出できるだろう。


ただ……あの慌てっぷりを見る限り、アサルトタイガーファングが完成するまで、その考えを思い付くことはないだろうな。


時間が掛かるとはいっても、何十秒も必要な訳じゃない。

俺と大会で戦ってから魔法の方も成長してるってことを考えれば、発動までの時間も短くなってる筈。


「終わりだ!!!!」


……うん、誰? と思わず口に出したくなる程の変わりっぷりだな。


それほどこの戦いに懸けてたってのは分かってたけど……随分荒々しくなったもんだ。

いや、荒々しいのは元からか。


とりあえず、壁は乗り越えられたと思って良さそうだな。


アサルトタイガーファングは逃げ戸惑うスノーベアーに直撃し、見事に顔面を食い千切った。

というか、上半身の半分以上はペチャンコか?


「……倒せ、た」


そう言うと、イーリスは膝から崩れ落ちた。

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