隣に立てるか否かの機会

「はぁぁあああああッ!!!!」


……いや、誰? って感じで攻めるじゃん、イーリス。


イーリスの戦闘スタイルを考えれば、後方から魔法を撃ち続けて倒すのがベターなんだが、今は遠距離攻撃を放ちながらも、スノーベアーに近づこうとしている。


多分、超真剣な表情で……というより、まさに死に物狂い?


確かにCランクモンスターを倒せなきゃ、リザード公爵様の依頼が終わるまで宿に籠ってろ、的なことは言った。

ただ……俺としては、Cランクモンスターが相手であっても、絶対に立ち向かえる根性を見せてもらえれば、それでも良かったんだけどな。


だって、イーリスは魔法使いとしての技量は超高い。

トップクラスの人からすればまだまだこれからに思われるだろうけど、現時点の年齢を考えれば、数年代上の人と比べても魔力操作、魔力量などは負けてない。


しかし、この雪原辺りに生息しているモンスターだと、相性が悪い。

攻撃を放っても物理的な威力は通れど、氷という属性のダメージが全くと言って良いほど効かない。


「ルーノさん、一応聞いておきたいんですけど、イーリスは火魔法を使えますか?」


「……一応習得はしていますが、スノーベアーに有効な攻撃力はありません」


「ですよね」


やっぱりそうだよな。


血筋? 的にも火魔法のアビリティとは相性が良くないはず。

氷魔法の物理的攻撃力なら、スノーベアーにも効くとは思うが……それなりに毛皮が分厚かったというか、脂肪が厄介というか……杖に魔力を消費して刃を付けてるけど、イーリスの技量で斬れるかどうか。


大会で戦った時にはなかった、接近戦で戦う強さは確かに身に付けてたけど、上手くやれるか?


「ガァァアアアアッ!!!」


スノーベアーは環境に適しているから、寒さで動きが鈍るなんてことはなく、元気いっぱいに両腕を思いっきり振るう。

接近するまでにアイスボールやアローを放ってるけど、マジで大して効いてない。


氷球は腕を使って弾いてるけど、氷矢に関しては体に当っても気にしてないっぽいな。

確かに血は出てないし……眼や頭に当りそうな攻撃だけは気を付けてるって感じか。


それをイーリスも理解したのか、頭だけに狙い定め始めた。

ただ、そうすれば必然的にスノーベアーは起こしていた上半身を下げ、四足歩行状態になる。


「はっ!!!!」


スノーベアーが走り出そうとした瞬間、迫っていたイーリスは身体強化を使った。

上手くスノーベアーの視界から消えて、体を切り裂いた……切れたのか? ここからじゃ、ちゃんと見えないな。


その後、今度はスノーベアーの周囲を旋回するように走り、攻撃魔法を撃ち始めた。

今回の攻撃にはランス、ジャベリンなども混ざってる。


さっきまでの注意を引くための攻撃じゃなく、完全にダメージを与える為の攻撃。


良い選択……だとは思うが、今度は魔力量が心配になってくるな。

イーリスの魔力量は他の令嬢や令息と比べて、圧倒的に多い。


それでも先程の様に何発もボール、アローを放ち、今度はそこにランスやジャベリンも混ざっている。

ランスやジャベリンはどう考えても、絶対に仕留めるという意思を込めて放ってない。


スノーベアーの行動を制限……尚且つ、ダメージを与えていくといったところか。

確かに、それらの攻撃魔法ならスノーベアーも無視できないだろうけど、旋回する間も身体強化のアビリティを使い続けてる。


そうなってくると、フィニッシュまで魔力量が持つのか……多分、ルーノさんとリタさんも同じことを心配してるだろうな。

良く見れば、二人の武器を握る手が震えてる。


今すぐにでも助太刀に入りたいのだろうけど……この戦いがイーリスにとって、友人の隣に立てるか否かを決める機会。

それを決して邪魔してはならないと解っている。

そこからくる葛藤で震えてる……はず。


二人には申し訳ないが、ここは絶対に堪えてもらう。

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