壁を超える要素にはなる

探索を初めてから数時間が経過し、今のところイーリスは全ての戦闘に参加している。


雑魚なら攻撃魔法で一掃し、そこそこ強くて数が多い場合は、連帯することもあるが……半分以上のモンスターはイーリスが殺してるな。


もう少し素材のことを考えてほしいと思わない訳ではないが、今のイーリスにそこまで頼むのは酷というものだろう。


ただ……うん、そうだな。

シュラの言う通り、ちょっとイーリスの危うさが心配になってきた。


「ラガス君」


「はい、何ですか?」


やば、寒い環境なのに何故か良い匂いが……って、ラージュさんは真剣な顔で俺に何かを相談したいのだろう。

それを考えれば、だらしない顔をするのは良くない。


シャキッとしないと。


「イーリスに、Cランクのモンスターと戦わせるつもりですか?」


「……今のイーリスには、そこは超えてもらわないと考えてます」


十三歳の令嬢に厳しいことを言っている自覚はある。

でも、この先遭遇するかもしれないモンスターのことを考えると……やっぱり、そこがラインだ。


てか……やっぱりラージュさんは、Cランクモンスターを一人で倒せる実力を持ってるよな。

さっき、さすがに手を貸した方が良いかと思ったけど、結局スノーベアーを一人で倒したし。


多めに魔力と時間を使ってはいたけど、しっかり危なげなく倒した。

流石フライヤ女学院のトップだ。


「そうね……その壁を超えないと、この先邪魔になる可能性は高い。でも、今のあの子はとても危ういと思うの」


「……それは俺も感じ取ってます」


結果を出せないなら、宿に残ってもらう。

その決定を覆すことはないけど、死なれたら元も子もないしな……そうならないように気を付けるつもりだけど。


「ただ、この機会を逃せば壁を超えるチャンスが遠のくと思います。イーリスが諦めると言うなら、それでも構いませんけど」


「……今のあの子に、そんな冷静な判断を下すのは無理でしょうね」


「俺だけじゃなくて、ルーノさんやリタさんも万が一のことを考えて構えてます」


少しの怪我とかならまだしも、腕が吹っ飛ぶとか最悪死んだらヤバいというか……俺の首が飛ぶ事態になるかもしれない。


おそらくルーノさんとリタさんも同じ気持ち。


「危うさが死を招くことがあることを否定はしません。それでも、壁を超えるには時に危うさが必要なのかと……」


「……ラガス君の言葉には、重さがありますね」


いや、別にそんなことはないと思うんだが……否定するのも面倒なので、スルーしておこう。


予想外にもイーリスが積極的に戦闘に参加する結果に少し驚きながらも、探索から六時間ほどが過ぎた。

昼食を食べ終え、魔力回復のポーションを飲み、スタミナと魔力も万全な状態……そろそろCランクモンスターに遭遇したら、イーリスに戦わせてみるか。


ある程度雪原での戦いにも慣れてきてる……まぁ、恐怖を克服できたかは別問題か。

戦いが始まれば勇ましく戦ってはいるが、まだ体が震えている。

防寒対策はちゃんとしてるし、寒さが原因ではないだろう……恐ろしいとは思うが、ここを乗り越えてくれないとな。


「ラガスさん、あれ」


「スノーベアー、か」


丁度良いといえば丁度良いか。

イーリスにはあいつと戦って……おいおい、気が早いな。


「ラガス坊ちゃま、後方に二体隠れてます」


「……マジか、結構考えてるな」


一匹のスノーベアーが現れたと思ったら、後方に雪にもう二体が隠れてた。


どう考えてもイーリスは気付いてないっぽいな。


「今回は私が行きましょう」


「それなら、私たちも行きましょうか。ラガス様、セルシア様をよろしくお願いします」


「分かりました」


後方の雪に隠れているスノーベアー二体のうち、一体はメリルが対応。

もう一体はキリアさんとルーンさんが対応に向かった。


さて……とりあえず魔弾十個ぐらいはスタンバイしておかないとな。

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