いや、不満ではないよ

ウィルキリアに向けて出発してから二日目の昼休憩時、いつも通りシュラと体を動かそうと思っていると、イーリスの奴に声を掛けられた。


「今回は私と戦いなさい」


「……良いぞ」


「何よ、その不満そうな顔は!」


「いや、別にそんなことないぞ」


若干不満ではあるが、イーリスクラスの魔法職と模擬戦が出来る機会はあまりないので、超絶不満ではない。


ただ、ちょっと上から目線な態度が鬱陶しいなと思っただけ。

向こうの方が立場的には上だから仕方ないのかもしれないけど。


「イーリス、ラガス君はあなたとの模擬戦を快諾してくれたのよ。文句を言うのは止めなさい」


「は、はい……」


おい、なんで「あんたのせいで怒られたじゃない!!」みたいな表情してるんだよ。

お前が文句言ったのが原因なんだろ。俺が素直にお前と模擬戦しても良いって答えたのに。


やっぱりこいつは好きになれないなと思いながら、少し開けた場所に移動。

イーリスとのバトルは遠距離攻撃で戦うのがメインとなるので、周囲の被害が出る可能性が高い。


まっ、セルシアやルーノさんなら難無く弾いてくれるだろうけど。


「んじゃ、やるぞ」


審判はいない。

特別な勝負じゃないし、どっちが負けた勝ったかなんて、ちゃんと判断できる歳だ。


とりあえず魔弾を複数生み出し、イーリスに向かって飛ばす。


「嘗めるんじゃないわよ」


アイスボールを複数展開し、俺の魔弾をぶっ壊す。


ん~~……初めて戦った時と比べて、速度が上がってるっぽいな。

イーリスもイーリスで真面目に訓練してるってことか。


「いやいや、別に嘗めてはいないぞ」


うん、そうだそうだ。全くもって嘗めてない。

まだ小手調べをしてるだけだ。


武器や素手を使わず、がっつり魔力を使う模擬戦だから、行えるのは一回だけ。

そしてただの模擬戦とはいえ……こいつにはちょっと負けたくない。


なので、キッチリと情報を得て戦って、勝たせてもらう。


とはいっても……あんまり負けるとは思ってない。

油断大敵かもしれないが、俺だってあの時から少しは成長してる。

それはイーリスも同じかもしれないが、頑張ってお互いに成長していれば……結果、差は縮まってない。


確かに攻撃魔法の速度は上がってる。

でも、捉えきれない速さではない。


「ッ! 相変わらず変態ね!!!」


「魔力操作が達者と言ってくれ」


誰が変態だ、ツンしかない娘。

いや、こいつにデレられても気持ち悪いだけなんだけどさ。


発射速度が上がっても、まだ魔弾の魔力操作が追い付く範囲。


威力がそれなりにあっても、横から攻撃されると氷は砕かれる。

そんで、俺の魔弾は砕いた後も生き残る。

ちょっと威力は削られるけど、まだ十分使える。


「ちょっとは強くなったみたいだけど、まだ俺の魔弾の方が強いな」


「うるさいわね!!!」


ん~~~…………ちょっと煽ってみたけど、別に攻撃や判断が乱れてはいない、な。

多分、模擬戦であってもイーリスは絶対に俺に勝ちたいんだろうな……うっかり殺されたりしないよな?


発動時間的に不可能だけど、アサルトタイガーファングを使おうとしたりしないよな。

それはもう模擬戦の範疇を越えた攻撃だし……仮に使おうとしてきても、その時に判断すれば良いか。


「ちっ! ちょっとは当たりなさいよ!!」


「嫌だよ。お前の攻撃、当ったら普通に痛そうだし」


今回の模擬戦は魔力の使用がありなので、体を魔力で強化している。

なので、アイスボールぐらいは食らっても大丈夫そうだけど、アローとかランス、カッターはちょっとヤバい。


というか、イーリス……お前、この模擬戦で全魔力を消費するつもりなのか?

そりゃ魔力回復のポーションとかは用意してるだろうけど……俺が気にする部分じゃないか。


このまま打ち合いを続けていたらかなり時間が掛かりそうなので、ちょっとずつ距離を詰め始めた。

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