やっぱり寒い

魔法の腕は上がってるみたいだけど、やっぱり近づけばまだまだ弱いな。


「嘗めるな!!!」


「……やるじゃん」


近づいたら弱いってのは、訂正するか。

手に持っていた杖あっての攻撃だと思うけど、杖のてっぺんから氷の刃を生み出し斬りつける……良いんじゃないか?


振り方はまだちょっと甘さがあるけど、及第点ぐらいの技術はある……と、思う。

指導者じゃないから、あんまり偉そうなことは言えないけど、ちゃんと成長してるな。


「なっ!?」


「ほいっと。俺の勝ちで良いな」


軽く音の衝撃……サウンドショックを飛ばし、氷の部分だけ破壊。

イーリスの斬撃は空振りに終わり、指先に魔弾を生み出して突き付ける。


どう考えても、模擬戦であれば終わりの形だ。


「ッ!! ……そうね、私の負けよ」


負けは認めるけど、まだまだやり足りないというか……逆にストレスが溜まってしまったか?

でも、俺だって負けたくないって気持ちはあったからな。

気を使って負けてやろうとは思わない。


てか……そんな真似をすれば直ぐバレて、逆に怒りそうだ。


「ねぇ、最後何をしたのよ」


「最後って……氷の刃を破壊したあれか」


「それよ。そんな簡単に割れる強度じゃないんだけど」


アイスボールやランスと比べて、結構強度を高めていたのか?


実際に触ってないからあんまり分からないけど、音の振動で攻めたからな……一定以上の強度じゃないと、割と簡単に砕けるぞ。


「そうか……まっ、ちょいっと攻撃しただけだ」


「あんたねぇ、私をおちょくってんの」


「別におちょくってはいないっての。誰にでも秘密にしたい手札ってのはあるだろ」


そんなに秘密にしてるって訳じゃないけど、イーリスにタダで教えてやる義理はない。


「……いつかぶっ飛ばして聞き出してやる」


「ふふ、脳筋だな~」


「何ですって!!」


魔法使いに脳筋って言うのはおかしいかもしれないけど、聞き出すために俺をぶっ飛ばすんだろ……その考え方だと、脳筋って言われても仕方ないだろ。


金を払って情報を得るとかならまだしも、ぶっ飛ばすんだろ……やっぱり脳筋だな。


「イーリス、落ち着きなさい」


「ッ……はい」


本当にラージュさんの言う事だけは素直に聞くな。


あっ、でも今回だけは納得出来てないって表情してる……まっ、模擬戦ぐらいまた受けても良いけどさ。


「ラガス君、今日戦ったイーリスは大会で戦った時と比べて、どうでしたか?」


「え? えっと……一応成長してるなと感じましたね。攻撃魔法の速度、杖を剣に見立てた斬撃。イーリスなりに前に進もうとしてる部分が見えました」


着実に成長している。それだけは事実。

嘘ではなく本音だ。


だから……なんでそんな嫌そうな顔するんだよ、お前は。


「良かったですね、イーリス」


「……そうですね」


うわっ、返事してるけど超不機嫌。

そりゃ上から目線な感じで褒めたかもしれないけどさ…………止めた、これ以上ごちゃごちゃ考えても仕方ない。


イーリスとの模擬戦が終わり、再び目的地であるウィルキリアに向けて出発。


道中ではモンスター以外にも、盗賊に襲われることが一度あった。

盗賊としては、大人である騎士が二人だけだったから、戦力さえつぎ込めば殺せると思ったのかもしれない。


しかし中身を見れば、盗賊の戦力を複数潰せる人材がこちらには多い。

加えて、狼竜であるルーフェイスまでいる。

襲い掛かってきた盗賊は俺たち令息、令嬢組が手を出すことなく瞬殺。


シールバーランク並みの力を持った奴が複数いれば話は別だったかもしれないけど、それぐらいの戦力がなければルーノさんたちが負けることはない。


全員が怪我を負うことなく順調に進み続け……ようやくヘイルタイガーやアイスドラゴンが生息しているかもしれない地域に到着。


「……寒いな」


馬車を降りて、口にした第一声がそれだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る