早まるな

「はぁ、はぁ、はぁ……悪いな、付き合ってもらって」


「別に構わねぇよ。ちょっとはスッキリしたか?」


「あぁ、それなりにな。にしても……まだまだお前には追いつかなさそうだな」


「はっはっは!! これでも幼い頃から体術は毎日鍛えてきたからな。まだまだ負けねぇよ」


とは言っても、このまま俺が鍛錬を続けてもいずれは抜かされるかもな。

それほどリーベには格闘のセンスと才能を感じる……まっ、負ける気はないけどな!!!


「……なぁ、もしかして学校を辞めようとかちょっとも考えてないよな」


「ッ!!! ……」


この反応……ちょっとは考えてるみたいだな。

大失恋をした後、全てがどうにでも良くなったのかもしれないが……流石に思っただけで、踏み留まったか。


「それは止めといた方が良いぞ」


「分かってる、直ぐに頭から消した。それに……流石に父さんにぶっ飛ばされる」


「……だろうな」


ちょっと過激な気がしなくもないけど、侯爵家の令息が女を懸けた決闘に結果的に負けて学校を去ったら、マジで笑い者になる。


リーベ的には少々学校に居ずらいって思ってるのかもしれないが、結果的にそうなるのはアザルトさんだ。

リーベが辞める必要はこれっぽちもない。


「俺たちまだ一年生だぜ。卒業するまでに新しい恋をするかもしれないだろ」


「……直ぐ次に移ろうとは思えないがな」


「それはそうかもしれないけど……恋ってのはどこで、どのタイミングで見つかるか分からないものだろ。アザルトさんの件だって、確か一目惚れだったんだろ」


「そ、そうだな……あぁ、そうだった」


ヤバい、過去の恋愛に触れるのはアウトだな。


「と、とりあえず卒業するまでに恋人ができるかもしれない。その可能性はゼロじゃないだろ。あと、どうせハンターにはなるつもりなんだろ」


「……そうだな。今更騎士やどこかの家に仕えようという気にはならない」


「だろ、それならハンター科の生徒とそれなりに仲良くなっておけば、将来どこかでその縁が生きるかもしれない。それにな……ハンターになってからそれなりに良い生活を送るには、今から金を貯めておいた方が良いぞ」


「そ、そうなのか?」


おっと、どうやらちょっとハンターへの認識が甘いみたいだな。


「ハンターにはランクがあるのは知ってるだろ」


「あぁ、それは勿論知ってるぞ。ランクによって受けられる依頼があるのも知ってるが」


「それは良かった。基本的に卒業すれば一番下からのスタートだ。戦闘能力の高さによって飛んで昇給することは可能だけど、ある一定ラインからはしっかりと依頼を受け続けてギルドの信頼を得て、昇給する必要がある。俺は親が二人とも元ハンターだから知ってるが、そこそこ金がないと今使ってるベッドで寝ると無理だからな」


「……世間でいう一般的なベッドは学園の物より、そこまで品質が悪いの、か」


「そりゃ王都のベストフォーに入る学校のベッドだ。そこら辺の宿屋が質で勝てる訳ないだろ」


ベッドだけじゃなくて、料理の質も当然違う。

俺はこの世界の飯は圧倒的に不味い料理じゃなければ大抵は美味く感じる……でも、貴族が食べるような料理ばかり胃袋に入れてきた奴からすれば最初は戸惑うだろうな……いずれ慣れるとは思うけどな。


「だから、なるべく学生のうちに金を溜める。後は……野営時を快適に過ごす魔道具を持っていた方が良いだろうな」


「野営、か……そうだな。俺も何度か経験はあるが、自分の力だけで質の良い魔道具を揃えるとなると、それなりに時間が掛かるな」


「だろ。だからしっかりと学園を卒業するまで残って、その間にコツコツ金を溜めて道具を買って資金を溜めた方が良い。これからも魔弾の訓練を続ければ、低ランクのモンスターはそれだけで倒せる。ハンターでなくとも素材や魔核は換金出来るからな」


「……ふふ、的確なアドバイスに感謝する。お前はあれだな……偶に人生二週目かと思ってしまう」


「…………何言ってんだよ、そんな訳ないっての」


おいおい、鋭いな。

まっ、言うても生きた年数を足しても三十に届かないけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る