暴走してしまった恋心?

「よう、調子はどうだ?」


「……悪くはない」


悪くはない、か。

確かに不調には思えないが、精神は万全じゃなさそうだな。


「ちょっと話したいことがあってな。放課後に何か予定はあるか?」


「いや、特にない」


「そうか、それならちょっと俺と話さないか」


「あぁ、構わないぞ」


場所を特別寮の庭に移す。

ここなら、他の生徒に会話を聞かれる可能性はない。


「絶対って訳じゃないが……遠い将来、アザルトさんがお前に害を為すかもしれない。ということを覚えておいた方が良い」


「それは……どういう意味だ」


怒ってはいないな。

ただ、純粋に俺の言葉に対して疑問を感じている。


その疑問はきっちり解消してやらないとな。


「そのまんまの意味だ。おそらくだが、お前の実家はアザルト家に今まで援助した金を返せと命じるだろ」


「……そうだな。それぐらいは当然、命じるだろう。拒否権はないに等しい」


「だろうな。どう足掻いても侯爵家に男爵家が勝てる訳がない」


特別な事情がない限り、家単位で男爵家が侯爵家に勝つのは不可能だ。

それはアザルト家の当主は解っていたと思うんだが……なんで娘の思いや行動をもう少し縛らなかったんだろうな。


アザルトさんが両親には上手く誤魔化していたからか?

……可能性は無きにしも非ずか。


「それと、多分賠償金も請求するだろ」


「貴族の面子を考えれば、当然請求するだろう……いったい幾らになるのかは分からないがな」


やっぱりそこら辺は子供には分からない領域か。

俺もそこら辺はさっぱりだから、いったいアザルト家にどれだけの金額を請求するのか分からない。


「そこら辺は……口を出すつもりはないんだろ」


「あぁ、そう決めた。そもそも……その道を選んだのはフィーラだ。頭に入っているのか否か、それはあ分からないが」


「……別にアザルトさんが馬鹿だと言いたい訳じゃないけど、俺は絶対に忘れてると思うんだが……そこら辺どう思う?」


「…………俺も、フィーラはそういった貴族の事情を忘れている気がする。フラれて色々と頭が冷静になったんだが……良識があれば、普通の令嬢は俺からの誘いを断らない、よな」


「安心しろ。リーベが言っていることは正しい」


全くナルシストではない。


人間的な意味でリーベからの誘いを断る異性は殆どいないと思うが、貴族的な事情を考えれば普通は断らない。

にも拘わらず、アザルトさんは地獄の道……未来に足を踏み入れた。


「ほら、あれだ。恋心は常識とかを壊して人を暴走させてしまうもの……って言うだろ」


「そう、なのかもな……とにかく、俺はそういった事情に関与するつもりはない。ライドが傍にいるなら……案外なんとかなるかもしれない。あいつは……強かったからな」


確かにライド君は強かったな。

一般的な環境で育って、あれだけの強さを得たって思うと……おっと、背筋が震えた。


確かにハンターになれば大金を稼ぐことは可能だろうけど、それでも金額が金額だ……そう簡単に片づけられる重荷ではない。


「ライドが強くても、アザルトさんの心が先に壊れるかもしれない。そうなった時に……リーベに逆恨みする可能性がゼロとは言えない。てか、俺はそうなってしまう可能性がそれなりに高いと思ってる」


「…………あまりそうなると思いたくはないが、ラガスはそうなる可能性が高いと思ってるんだな」


「あ、あぁ。そうだな」


やっぱり、まだアザルトさんに惹かれている部分があるのか?

もしそうなら、自分を逆恨みするなんて可能性は考えたくないかもしれないか……でも、本当にそうなってしまう可能性が高いと思うんだよな。


「分かった。その可能性は頭に入れておく」


「そ、そうか……うん、そうしといてくれ」


良かった。百パーセントその未来が訪れる訳じゃないけど、頭の片隅に置いといて損はない筈だからな。


「ちょっと頭がスッキリした。なぁ、軽く俺と模擬戦してくれないか」


「模擬戦か? あぁ、勿論だ。準備運動をしたら直ぐにやろう」


模擬戦を更に頭がスッキリするなら、何回でも付き合うさ。

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