運命の決闘、開始

「逃げずに来たことは褒めてやる」


「逃げる理由がないからね」


決闘は冒険者学校の訓練室で行われる。


審判を務める者は学園の教師だが、貴族の出。

リーベが侯爵家の令息だと知っている筈なので、馬鹿な誤審はしないだろう。


そしてアザルトさん、ザックスたちも観客席に座っている。


「あれが噂のライド君ですか……なるほど、優しそうな顔をしてるだけのイケメンとは違うということですね」


「……悪くないんじゃないっすか? 結構鍛えてる様に思える」


「気を付けるべきは、魔剣とマジックアイテムの装飾品か」


鑑定させて貰ったが、平民が買えるような代物ではない。

仮にモンスターを倒して生計を立てていても、サクッと買えるレベルではない。


もしかしたら、どちらかはアザルトさんが買ったのか?

その可能性は十分にありそうだ。


はぁーーーー……全く、リーベの何がそんなに嫌なのか理解出来ないな。


「それではお二人共準備が整ったようなので、決闘の開始の合図をさせて頂きます」


「あぁ、構わない」


「よろしくお願いします」


いよいよか。ヤバい、落ち着いたはずなのにドキドキしてきた。


でも大丈夫だ、リーベが絶対に勝つ。

ライド君が限界突破を使っても……リーベにはあれがある。


「それでは……始め!!!!」


審判の合図と共に、両者はほぼ同時にその場から駆け出した。



――神の視点――


「はぁぁああああッ!!!」


「ぜぇぇああああッ!!!」


両者、まずは全力を出さずに……しかし素の状態で本気の力で地面を蹴り、剣を振った。


鋼と鋼がぶつかり合い、甲高い音が部屋に鳴り響く。


「……最初の勝負は、リーベの勝ちみたいだな」


核の強さと単純な腕力の差の影響で大きく後ろに後退。


しかしリーベは直ぐに追撃を加えようとせず、手の痺れを確認する。


(……なるほど、生半可な鍛え方はしていないようだな)


お互いにまだまだ手札を見せていない。

しかしこの一合でライバルの身体能力は侮れないと、その身をもって知れた。


斬り合いで押されたライドもリーベと同じく、表情に焦りなどは無い。

冷静に状況を分析していた。


(マジックアイテムの効果などもあるかもしれないけど、それだけじゃない。しっかりと体の中心に芯がある強さだ)


簡単には倒せない。

今まで自分に絡んで来た貴族の令息とは違う。


それを思い知らされた一撃だった。


「ふっ!!!」


もう少し敵の手札が知りたいと思い、再び斬り掛かる。


「しっ!!!」


剛の斬撃を躱し、すぐさま迎撃に移る。


力では負けてしまったが、速さなら自分が上だと思い、斬り裂く斬撃ではなく当てる斬撃に特化して振りぬいた。

しかしそれは簡単なステップで躱され、再び斬撃が襲い掛かってくる。


「ッ!?」


上手く決まらずとも、剣でガードさせるのは可能だと思っていた。


それがあっさりと躱されたことに動揺したが、襲い掛かる斬撃には即座に対応する。


(今のは当たると思ったんだけどな)


ライドはアザルトから疾風リングを今回の決闘の為にと、本人から渡された。

能力は行動速度の強化、斬撃技の切れ味強化。


二つとも侮れない強化だが、それをリーベはあっさりと躱した。


(意外と動きが速いな。ただ、あの三人と比べれば大したことはない)


ラガス、メリル、シュラの三人の動きはもっと速い。

一度そこそこ本気の三人と模擬戦を行ったが、殆ど付いて行くことが出来なかった。


速さには眼が慣れており、体も付いていく。

現時点のライドの速さならば、何も問題はない。


ライドは一度大きく距離を取り、身体強化のアビリティを使用。

それと同時にリーベも同じアビリティを使用し、剣戟が加速する。


「まだまだお互いに様子見って感じっすね」


「そうだな……ただ、素の身体能力はややリーベが有利かもな」


一か月の特訓の成果として、リーベは動きが柔らかくなった。


型に沿った固い動きではなく、臨機応変に動ける柔軟な体と脳。

剣戟の中で態勢が崩れることがあっても、即座に動きを立て直す。


「お互いに魔力には余裕がある。この剣戟は少し長引きそうだな」


まずは相手の手札を少しでも知りたい。

両者とも同じ考えを持ちながら、斬り合いは三分ほど続いた。

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