悔しさを燃やす相手

「私はこれで学生の中ではある程度強いの」


それは知ってる。アリクとあれだけ良い戦いをしていたんだ。

ある程度どころでは……下手な騎士よりも強いんじゃないか?


「それに学園に入る前から下の子達にはある程度名が知れていたの」


「……つまり、ラージュさんに負けるのは仕方ない……そういう思いがリザードには強くある、ということですか?」


ラージュさんをさん呼びしたら後ろのメイドと執事の表情が少々怖くなったが、とりあえず無視しておこう。

特に何か言ってくる訳じゃ無いしな。


「そういうことで。勿論悔しそうな表情はしていましたが、自身を成長させる糧にはなりませんでした」


「なるほど。それで、自分との一戦は意味があったと」


「はい。あなたは腰に帯剣していた武器を一切使うことなく戦った。そしてイーリスに何もさせずに完勝した。特にアサルトタイガーファングを砕かれたのは良い経験だったでしょう。あれには私も驚かされました」


あぁ~~~、あれか。確か音魔法の気合一閃とジャブ四発? で砕いたんだったか。

一応上級魔法だったから、それだけの手札で砕けばそりゃ驚くよな。


「あの子の眼には君のパートナーであるロウレットさんしか映っていなかったの。そしてその隣に立つ男として、君は相応しく無い。なんてことをよく愚痴られていたわ」


「は、ははは。俺も試合が始まる前に同じような事を言われました。男爵家の四男なんで、それだけ聞けば相応しく無いと思ってしまうのは仕方ないですけどね」


正直俺もそう思う。何故俺みたいなイレギュラーがセルシアのパートナーに選ばれたのか。

それは魔力の波長が合っていたからとしか言えないだろう。でも、その結果は嬉しいがやっぱりなんで選ばれたのかは分からない。


この世界に来るとき、神様からそういう事があると言われた訳では無いからな。


「謙虚ですね。あなたの試合を観ればそのような考えは吹き飛ばすよ。堅く古臭い思考を持つ人達は納得いかないでしょうが」


そりゃそうでしょうね。自分達のフィールドに異物が飛んで来たらそりゃ受け入れがたいでしょう。

まっ、それは俺が初めてでは無いだろうけど。


「ただ、あなたはある人達にとっては目指すべき姿になるでしょうね」


「……俺は、基本属性魔法のアビリティを習得する才能が無かったけど、戦える才はあった。他の人より劣るならば、他の才を……センスを磨き続け、経験を重ねる。本当に最前線を走る人達に追い付きたいなら……そういう考えに至りますよ」


アビリティを使わない魔弾と剣術に加えて体術。

それだけでも学生相手なら十分に戦えると思っているし、自信がある。

他人にはあって、自分には無い。それなら自分が持っている武器を極限まで極めれば良い。


まぁ、普通の子供ならそれは強制されないと出来ないだろうけど。


「……あなたは凄いわね。そこまで高みに登ろうと努力し続けられる人達は、そうそういないでしょうね」


「俺の場合は……一応理由がありましたからね」


ハンターとして世界を回るならば強さは必須。

後は……父さん達にとって誇れる息子でありたいって感情もあった。


人によってそういった感情に潰されてしまう事があるかもしれないけど、俺はそれが力になっていた部分はある。


おっ、料理がようやく来た。

というかラージュさんの分まで……もしかして先に頼んでたのか?


「イリースは、一応悪い子じゃ無いの。プライドが高いところはあるけどね。あなたに対しては、ロウレットさんを取られたって感情もあるでしょうし。でも、良ければ仲良くしてあげて欲しいの」


仲良く、ねぇ……別に俺は構わないんだが、リザードが俺に友好的になるってシーンが想像出来ない。

というか、また面と向かって会ったら戦いとか申し込まれそうだし。


「向こうがそういう態度で接してくれるなら、仲良く出来るかと」


「ふふ、それもそうね。でも、そう返事してくれただけでも嬉しいわ」


……やっぱりいつもクールそうな顔をしてる人の笑顔って中々に反則だよな。

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