想定内の動き

さて、ギアを上げてくぞ。


「付いて来れるなら付いて来いよ」


「上等だ!!!」


身体強化のアビリティに加えて闘気による強化。

そして素の身体能力を全開に使って攻める。


攻撃を加える箇所なんて関係ない。上、下、右、左、斜め、正面、一つを残してあらゆる場所から攻め続ける。

今度こそ直ぐに崩れる、そう思ってたんだが……本当にこの三年間で何があった?


「どうしたんだよアリク、マジで成長したじゃねぇーかっ!!!」


「そりゃ三年間は経ってるからな!!! お前は、相変わらず余裕そうな面だな」


まだまだ身体強化の手札はあるからな。そう簡単に顔から余裕な笑みが消えてたまるか。

だが、本当に直ぐに終わると思っていた。


けど終わらない。三十秒、一分、一分半経ってもこいつは防ぎ続ける。

正直驚いた。こいつ、本当にサルネ先輩に一度も勝てなかったのか?


戦いの技術だけで言えば完全にサルネ先輩の方が上だ。

だが、力とスピードと反応速度でそこまで差があるとは思えない。


身体能力と技術に経験をプラスしてサルネ先輩が上だったとしても、十回戦って十回負ける筈が無い。

それとも、もしかしてアリクは魔闘気が扱えないのか?


それならまと話は変わってくるが……いや、もうちょっとだけ様子を見てみるか。


「戦いの最中に考え事なんて、本当に余裕だな」


「ッ!!??」


俺の攻撃が……流された?

こいつは剣術スキルの流動、アリクの歳で扱える奴がいないとは思えない。というか俺が使えるしな。

だが、これを習得するには相当な技術と経験が無いと余程の才能あふれる者じゃなきゃ扱えない。


……アリクの努力と才能。それにプラスして運、みたいだな。


俺の体制は崩れ、斜め下から斬り上げた長剣は上に逸れて半身を無防備に晒した状態。


「ハッ!!!!」


そんな俺にアリクは渾身の突きを放つ。

流動を成功させた時の表情を見れば成功したのは半分はまぐれだと解る。

おそらくまだ三度か四度行って一回成功するかって確率だ。


流動擬きなら何回でも成功出来るかもしれないが、あそこまで完全な流動は何度も成功しない。

そんな顔だった。


けれど今の表情は至って戦闘時の表情だ。

放つ渾身の突きはまぐれの一撃では無いと証明する表情。


本当に、昔と比べて変わったな。

昔のお前ならその顔に阿呆な笑みがくっ付いてたくせによ。


でもなぁ……それじゃ届かねぇよ。


「なんでわざわざ俺が片手で長剣を振ってたかこれで解ったか」


「ッ!? お、まえ。本当に化け物だな。普通はこれを止められないだろ」


「かもしれないな」


ところがどっこい、俺は普通じゃない。色んな意味で普通じゃ無い。

確かにお前が流動を使ったこと自体には驚いた。


でもなぁ……可能性としてゼロと考えていた訳じゃないんだよ。


「ほいっと」


「が、は……ッ!!!!」


体を無理やり左で捻ってからの飛び蹴りを腹にぶち込む。

良い感じに決まった。数メートルは吹っ飛んだし。


でも、肝心に決まってはいないか。


「咄嗟に腹筋を固めたな」


「じゃなきゃ今頃気絶してた思うぜ」


まっ、多少なりとも中まで効いている筈だ。

このままなんも無いなら、ぼちぼち終わりだな。


「もう一個、ギアを上げるぞ。付いて来れないなら……そこで終わりだ」


「はっ!!! まだ終わるわけないだろ!!!!!」


まだまだ目は死んでいない。むしろ本番はここからだろ、って顔してんな。

それじゃあ、行くぜ!!!


「ふぅーーー」


体に魔闘気を纏い、右手に長剣を持ちながらもボクシングの様なスタンダードのファイティングポーズで構える。


「はぁーーー」


それに対してアリクも魔闘気を体に纏い、やや前傾姿勢で構える。

何かを考えてるみたいだが……関係無いな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る