嫉妬より戦意
サルネさんとの模擬戦を終えた翌日の放課後、予想通り……一人の上級生が俺の元にやって来た。
「久しぶりだな、ラガス」
「確かに久しぶりだな、アリク」
クレアと同じ三つ上の兄であるアリク。
久しぶりに見るアリクは俺の記憶と比べて大人になっている……と思う。少なくとも外見は。
体格も大きくなった。過去と比べて、実力も上がっただろう。
「で、俺に何か用があったからこんな人気の無い場所に連れて来たんだろう」
前世風に言えば体育館裏って感じの場所に俺とアリクは面と向かって立っている。
周りには俺とアリク以外の気配は感じない。
もし……もし、数の多さで俺を潰そうとか考えていたら本気でぶっ潰そうかと思っていたが、流石にそこまで腐って落ちてはいないか。
「あぁ。ラガス……俺と、戦ってくれ」
予想通りの言葉。ただ、その目には嫉妬や恨みの感情は殆ど無かった。まっ、ちょっとは残ってるけどな。
それでも十分な戦意が宿っている。
純粋に、俺と一対一で勝負して勝ちたいって事で良いのか?
「珍しいな。お前のそんな目は……良いぞ」
目に戦意より嫉妬の感情が宿っていようがどちらにしても戦っていたけどな。
「それで、いつ戦うんだ?」
「……今日、これから用事はあるか?」
戦えるなら今すぐにでも戦いたいって訳か。
本当に、いつになく戦意に満ちているな。
「いいや、特に無い」
「そうか、ならこれから直ぐに戦ってくれ。場所なら既に取ってある」
おいおい、俺が戦いの申し込みを受ける前提で物事を進めてたのかよ。
別に良いけどさ。
場所は変わって毎度お世話になっている密室の訓練場。
「……レックス先生、もしかして暇なんですか?」
「おいおい、折角審判してやるってのに酷い言い様だな。まっ、面倒な書類仕事は他の先生に任せてるから確かに暇といえば暇だな」
この人……中々にダメ人間だな。
まぁ、やったことないけど書類仕事とか絶対に苦手だろうから口には出さないけど。
「後でツケが回ってきても知りませんよ」
「大丈夫大丈夫、いつもなんとかなってるからさ。はっはっは!!!」
・・・・・・いつか天罰が下ればいいのに。
「さて、一応決着の判断はこっちで決めるが、基本的に好きなようにやれ。んじゃ……始めっ!!!!」
お互いに持つ得物は長剣。向こうがどれだけ剣の腕を上げたのかは知らんが、メインの武器でも負けるつもりはない。
「フンッ!!!」
「シッ!!!」
同時に駆け出し、身体強化は既に発動済み。
まずはお互いに小手調べの一撃ってところだろう。
おそらくだが、魔力による身体強化も闘気による身体強化も使える筈だ。
勿論俺もそれらは使用しておらず、素の身体能力にプラス身体強化のアビリティのみ。
体格では向こうが上だが、素の力と身体強化の練度で負けるつもりはない!!!
「お、らっ!!!!」
「ぐぅっっっ!!!! 相変わらずの、馬鹿力だな」
「基礎をしっかりと鍛えていると言ってもらいたいな」
そっちも、思ったより粘るじゃないか。
身体強化のアビリティのみならもっと吹き飛ぶかと思ったが、きっちりと鍛えてるみたいだな。
縦に斬り、横に払い、下から振り上げ、狙いを定て突く。時にはお互いの制服を切り裂くような蹴りが飛ぶ。
だがそれをお互いバックステップで、サイドステップで、体を半身にして、膝に力を抜いて避ける。
お互いに今のところダメージらしいダメージは無い。
どれか一撃ぐらいはまともに決まるだろうと思っていたが、しっかりと俺の動きを見て予測してるってところか。
細かい魔力の斬撃も放ってくるし、器用さも増してる。
ただ、やっぱり差はあるみたいだな。
今のところ俺には完全に傷が無い。
それに対してアリクの制服は所々裂けていて、顔にも少々切り傷がある。
とりあえずこれ以上、今のスピードで動いていても意味は無さそうだし、ギアを一つ上げてみるか。
アリクが付いて来れるかは知らないけど。
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