速さ、威力共に申し分ない

「どうやらネタ切れの様だな。ならそろそろ死んでくれ。どうせ逃げるつもりは無いのだろう」


バルンク様の言う通り、体中から血を流すハグベアだが未だに闘志は衰えておらず、殺る気全開と言ったところだろう。

ただ、闘志だけではどうにもならない程の実力差があるのが現状。


「雷斬脚」


放たれた雷の刃はハグベアが反応出来ない速度で飛び、その首を切り落とした。


「・・・・・・前より速くなった気がするんだが」


「脚力が上がっているんだ。多少なりとも速度は上がるだろう」


「あんな事、ラガス君も出来そうですね」


流石にそれは無い、っと一瞬思ったがあの年齢であそこまで体術が出来上がってるんだ。

何かしらの方法で出来てしまいそうだな。


魔法というアビリティを抜けば、本当に万能な少年だ。


「んーーーー・・・・・・お前達から見てどうだった?」


「どうだったと言われても、バルンク様なら素の状態でもハグベアは倒せると思うが、その魔靴を使っている事で楽に倒せてるって印象ってところっすね」


「ビラッズさんと同じ感想ですね。相手の体を斬るという点に力を入れずに済んでいるように見えますので。なので相手の攻撃を貰わない事と自身の攻撃を当てる事に集中できていたとい思います」


「速さが増す。それだけで戦況は変わります。バルンク様程速さに慣れている方なら魔靴による脚力の上昇も完全に操る事が出来るでしょう。最後の雷斬脚に関しても以前より威力が増しているかと」


ライトニングウルフの魔核の影響で確実に威力は増している。

それを見る限り、雷斬脚に使う消費魔力を抑える事で以前と変わらない速度と威力を放てることになる。

戦いの中でそれは有難い筈。


「確かにお前達の言う通りだ。基本的な脚力の上昇、それが大きい。そしてハグベアの皮膚を容易に斬り裂く刃。そして放つ雷の威力が上がっている。今の戦いで基本的な性能は確かめられた」


「それは良かったですね。それではもう屋敷に戻りますか?」


「いや、まだまだ戦うぞ。ラガス君にしっかりとした感想を返さなければならないからな」


日頃の書類仕事で溜まった鬱憤を晴らしたいという気持ちが大半を占めている様な気がしますが、その気持ちがあるのも確かでしょう。

それならもう試運転に少し付き合わなければなりませんね。


「それに、手紙に書かれてあった技がまだ試せていないからな」


「技、ですか。どういった技なのですか?」


「そうだなぁ・・・・・・バイドシャークの牙を存分に生かした技といったところか」


バイドシャークの牙を、ですか。

パッとは思い付きませんが、おそらく蹴り技なのでしょう。


「よし、ハグベアの肉は美味いから解体して持って帰るぞ」


解体して持って帰る事自体は構わないのだが、バルンク様が率先して解体に参加するのは護衛の者として避けて欲しかった。


だがやる気満々のバルンク様を止める事は出来ず、結局は四人で解体する事になった。

まぁ、生活魔法のクリーンがあるから血や匂いは問題無いのだが、それでも出来ればこういった雑務は控えて欲しいものだ。


「にしても、ここまで上等な魔道具を造るのにセルシアお嬢様が認める程腕が立つとはとんでもない小僧だな」


「本人が言うには娯楽が殆ど無いから体を鍛えたりモンスター狩り、錬金術の腕を上げるのが娯楽の変わりだとも言っていた。そういった考えを持っているから、他の同年代の子とは隔絶した力を持つのだろう」


「他の同年代とは隔絶した力をねぇーーー・・・・・・セルシアお嬢様が実力を褒めるって事は、やっぱりあの婚約者の優男よりも強いんだろ」


「その筈だ」


ジーク・ナーガルス。侯爵家の三男に相応しい実力を持っている。

同年代と比べて頭一つ抜けているのは確かだ。


ただそれでもセルシアお嬢様には及ばない。という事は結果的にラガス君に勝つのは難しいだろう。

例えランクの高い魔道具を使ったとしても、その実力差は埋まらない。

というか、ラガス君にはバルンク様が魔靴の報酬として送ったアブストエンドがあるから武器の性能は五分か、それ以下になる。


「ならセルシアお嬢様を巡って二人の漢が戦うって訳か。あれだ、女的にはこういうのが燃え上がる展開? なのかノエリア?」


「燃え上がると言いますか、基本的に本の中での話ですからね。学生である女子生徒からすれば注目すべきイベントだとは思います」


一人の女性を巡って二人の漢が戦う展開、確かにそれは男の私から見ても面白そうなイベントではありますが、貴族の子息や令嬢の話になれば当事者だけで解決出来る問題では無いのは確かだと思うんですがね。

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