今の方がより貴族らしいだろ

・・・・・・いきなり走り出しては来ないか。

いや、まだ父親の言う事を理解しようとしていないのか、目が完全に格下を見る感じだ。


格下だからこそ自身から攻める必要は無い、軽くあしらい実力の差を見せつけてから終わらせる。そんな事でも考えていそうだな。

まぁ、こっちも構えてはいれどただのポーズだし、考えは似たようなもんか。


副騎士団長様の要望は奇襲で倒すだったな。

とりあえず要望通り王道でない方法で倒すか。


身体強化のアビリティ発動。投擲アビリティの補正で投げ方を自動修正。

右手に持っている摸擬剣を点でなく面がリオウスにぶつかる様に投げつける。


「お、らあああ!!!」


摸擬剣を投げつけるとともに低姿勢で駆けだす。

てか、そこそこ強めに投げたけど副騎士団長様の息子なら大丈夫だよな? 点で投げた訳では無いし。


「なっ!!!???」


おーおー、やっぱり普通は驚くよな。

けど、咄嗟に面で跳んで来た摸擬剣を自身の摸擬剣でガードする反射神経は流石だ。


まぁ・・・・・・俺の予想通りの動きではあるんだけどな。


身体強化のアビリティで速度が上がった俺の速さと摸擬剣投擲を同時に把握するってのは・・・・・・いや、マジでか。


「結構やるな」


体は追い付いていないけど、意識だけは俺の方に向けていた。

闘気は使っていないし、速度がマックスって訳では無いけどまさか視界から消える事が出来なかったとはなぁ・・・・・・それならもう一歩。


「よっ、と」


「ッ!!!!」


その場からジャンプして空中で一回転。

そしてリオウスの背後に着地。


「これで終わり、で良いですよね」


リオウスの背後を取った俺は右手で銃の形を作り、人差し指を後頭部に突きつける。

これが真剣勝負なら、俺の魔弾がリオウスの後頭部を貫いて終わりだ。


「はい、そこまで。勝者はラガス君」


俺の動きに意識だけでも付いて来たのは驚いたが、それでもまだやっぱり子供ってところか。


いや、普段リオウスが稽古を付けている人が俺より接近戦で劣るとは考えられない。

なら単純に今回の結果はリオウスの油断が招いた結果か。


実力で勝った訳では無いな。でもそういうのも含めての奇襲って事になるか。


まっ、ご子息様は納得がいっていないみたいだけどな。


「と、父様!!! 納得がいきません!!! 僕に、もう一度こいつと戦わせてください!!!!」


「そう言われてもね・・・・・・ラガス君の勝利は揺るぎないものだよ。あの状態でラガス君はリオウスを殺す事は十分に出来た。つまりあの時、後頭部に人差し指を突きつけられた時点でリオウスは死んでいたんだよ」


「ッーーーーー!!!!!! ・・・・・・で、ですが!!! あれは貴族同士の戦いと呼べる物ではありません!!!!」


貴族同士の戦いって・・・・・・こいつ中々に笑わせてくれるな。

俺達騎士の息子同士ならその言葉を解らなくはない。仮にそうだとしても俺は自分の考えを貫くけどな。


それに、今の戦いの方が断然貴族らしいだろ。

悪い意味でだけどな。


「リオウス、戦いという場に立てば男も女も関係なく、貴族も平民も騎士にハンターも関係ない。勝負に勝った者が勝者だ。仮にラガス君が違法薬物で体を強化していたり、あまりにも身の丈に合わない魔剣や魔槍を使っているのならお前の言い分も分らなくはない」


その考えについては俺も同意する。

それは完全に個人の力とは言えないからな。

お互いがそういう事をしているのなら話は別かもしれないけど。


「けど、今回の勝負でラガス君が違法薬物も強力なマジックアイテムも使っていない。只摸擬剣投げつけ、リオウスに向かって駆け出し、跳んで背後を取った。あとは身体強化のアビリティを使ったぐらいだね。結果は変わらないかもしれないけど、こんな無様な結果を晒したのはリオウスがラガス君の事を完全に格下に見ていたからだ」


その通りだけど、まだ何か言いたそうな顔をしているな。

あまりそれを喋られたら今後通用しなくなるかもしれないから遠慮願うところだ。


「と、父様は、本来の実力ですらこの、ラガスの方が上だというのですか!!」


うん、まぁ俺みたいな見るかに強く無さそうな外見の奴より弱いなんて認めたくないよな。


「・・・・・・リオウス、認めなさい」


ッ!!! おいおい、いきなり圧を上げないでくれよ。思わずブルッてしまっただろ。


あの目、さっきまでは息子に対する父親の目だったが、今は未来の騎士に対する副団長の目ってところか。

あんな目をいきなり向けられたら数滴チビってしまう自信はある。


「もしラガス君がもう一度、今度は真正面からお前と戦っても勝者は変わらない。それだけ技量差は勿論あるが、なによりラガス君の方が断然戦い慣れている」


・・・・・・もう殆どツッコむ気は失せてたけど、やっぱり思わずにはいられないな。

なんでそんな事が解るんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る