第2話 よのことわり


とにかく、何をどうすればいいのか。

世間の渡り具合が、自分にはよくわからない。


27歳、男性、独身(自分はバツイチだが)

働く事への勢いが止まらない、という時期ではないだろうか。


朝のニュースでは、同年代のスポーツ選手が、

まさに世の中を盛大に彩っている。

大きな記録、新しい記録、忘れられない記憶。


そんな事、自分にはあっただろうか。

あるとすれば、2億円の慰謝料を得た事だろう。


厳密には、残りが1億と9千9百万と少し。

こんな事して、一体何が残ったのか。


復讐?


そんなつもりはなかった、のだが。

結婚をして、彼女が昇進して。

彼女が多忙になって、自分が主夫業をして、

彼女の身の回りの世話をして、

毎日送迎をして。


それが幸せとは思えなかったという結末なのだろうか。



そして、彼女の男関係に気づいた。


はじめは興味がなかったのだが。

無性に、そう何だか喪失した気持ちが

自分を蝕んでいった。


彼女の為に、

洗濯、

炊事、

掃除、

送迎、

アイロン、

スーツのクリーニング、

ストッキングの替えの購入、

生理用品の準備、

トイレをいつも綺麗に、

疲れがとれる入浴剤のセレクト、

季節を感じれるように模様替え、

朝は各日で和食と洋食を切り替える、

コーヒーも和食の日は、すっきりとブルーマウンテン、

洋食の日は、コクのキリマンジャロ、

寝室の香りにも気を付けて、帰ってきた彼女の様子で

3種類を用途分けして、


何も考えていない事はなかったはずだ。

唯一考えていないのは、自分のことだけだろう。


彼女からすれば、飽きるだろうな。

結婚生活というより、

婚姻上はパートナーであっても、家事と送迎をする人なのだったはずだ。


そして、


何を見て生きているのか、生きていくのか、生きるのか、

わからない自分がそこにあった。





プルルル。

珍しく電話。

おそらく母だろう。

「もしもし、元気しているかい?」


いつもの切り出し文句であったが、なんとなく落ち着く一言でもある。

「あぁ、毎日変わらない。」


「そろそろ、こっちに帰ってこないかい?」


「お父さんも気にかけているし。一緒にゴルフしたいって、寝言を言ってたのよ。

さすがに寝言に聞こえないくらいの様子に聞こえたから、

返事しちゃうところだったんだから。」


数日ぶりの母の口調は、とても軽やかであった。

僕は一人っ子で、家族3人の共通の趣味が、ゴルフである事。

そして、みんながスコア80台で、いつも接戦で楽しいラウンドが出来る。


「母さんも行きたいかい?」


つい反応して聞いてしまったが、

少し被せ気味に母は「もちろん!」と一言。


母の高揚した声が、少しだけ自分を元気付けてくれた気がした。



親孝行。家族で出かけるなんて発想は出てこなかったな。

今の自分の考えの矢印は、

自分にばかり向いてしまっている事を痛感した。


この世に生を受けて、まるでなんの支えもなしに生きてきたの如く。


父がいて、母がいて。


大きな存在は、あまりに大き過ぎて気づく事が出来ていなった。


灯台下暗しならぬ、灯台の下にいて、その大きさに気づかずままのようなもの。

少し、今の自分ならば、灯台から離れて見る事が出来たと思う。



数日後、母に電話をした。

ゴルフと温泉の計画を相談したところ、

その日のうちに行き先や日程まで、全てが決まっていった。

楽しむ事も目的であるが、家族3人水入らずの時間が

最も大事である事を、大切にしよう。

母とは、そんな電話の中で、気持ちが通じ合った気がした。

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オーバーザレインボー はしづめ れんと @eiji3454

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