愛憎

僕はベットの上にいた。ベットの上に座ってテレビを見ていた。当然のことながら内容なんて一切入ってこない。その間僕は咲菜の部屋の本棚や、小さな机や、枕元に置かれたどこかで見覚えのあるぬいぐるみを見ていた。それは、男の一人暮らしには無い一種の安らぎみたいなものがあった。部屋の端の方に置かれた本棚には沢山の本が詰まっていた。僕は目を凝らして、そこを見つめると、人間失格や人間椅子、こころなど女性の部屋にあると少し違和感のある本が並んでいた。

「コーヒー入れたけど飲む?」

咲菜は小さなカップをふたつ、背の低い机の上にコトンと置いた。

「ありがとう」

僕はそれを手に取って口をつけた。

咲菜は僕の隣に座った。それもとても不思議なくらい自然に違和感なく座った。普通、セックスをしないかと話をしてきた女性を隣に座らせるのだから多少ドキリとしそうなものだが、むしろ何か眠りにつくような安堵感が体中に染み渡っていった。

僕は咲菜がコーヒーを飲み終えたくらいに、咲菜の唇を奪った。それは切なさによく似ていた。それを払拭するかのように、舌で咲菜の唇をそっと撫でた。唇が動き柔らかな壁の奥から空洞が現れる。舌を絡めると咲菜の舌も僕の舌を撫でるように何度も舌の周囲をまわる。二人の息が荒くなっていくのを感じる。咲菜は僕のペニスのある辺りに触れる。何度も何度も子供をあやすかのように撫でつける。お互いの唇から口が離れると君は恍惚とした眼差しを僕に向けながら言った。

「咥えていい」

「ああ、頼むよ」

「ええ」

咲菜は僕のペニスの方へ顔を近づける。咲菜の舌は僕の亀頭を舐めカリを丁寧に舐った。

そして、僕のペニスが暖かい感触に支配される、それはまるで母体の中にでもいるようであった。咲菜の舌はキスの時と同様…もはやそれ以上に僕の反り勃った塔を、念入りに愛した。咲菜の頭がゆっくりと上下していて、かと思うとはやくなったりもして、僕はもう絶頂寸前であった。

「もう、出そう」

「口に出していいよ」

咲菜は一瞬だけ口を離して言う。

咲菜の舌はより動く範囲を広げ、上下の運動も激しくなる。それと同時に僕のオーガニズムは頂点に達し、咲菜の言う通り口の中へと射精した。

咲菜は僕の精液が全て出切ってしまうまで口を離さずに待っていた。僕が全てを出し切ってしまうと咲菜はペニスに着いた精液を残さず舐め取りながらそっと首をもたげて、僕の方を見て口を開けた。咲菜の唇には練乳のように白く粘り気もありそうな精液が昼間見た水溜まりの縮小のようにそこに溜まっていた。僕がティッシュを取ろうとすると咲菜は僕の手を握って首を振った。そして、口を閉じてそれを飲み込んでしまった。咲菜は再び口を開け僕の方を見た。

「飲んだの?」

僕は思わず素っ頓狂な質問をする。

「見ればわかるでしょ」

咲菜はまた笑って言う。それから咲菜はおもむろに服を脱ぎ始めた。僕も咲菜につられて服を脱ぐ。咲菜の体はとてもしなやかで、美しい線を描いていた。まるでなにか、ひとつの絵画を見ているようだった。僕が咲菜の裸を見つめていると咲菜は急に頬を赤らめた。

「そんなに見られたら恥ずかしい」と言った。

僕は今更のように思いつつもそんな咲菜にどことなく愛らしさを感じた。彼女はシングルベッドに横たわった。僕は咲菜の胸に触れた、咲菜の控えめではあるが形のいい乳房は言うまでもないが柔らかくとても素敵だった。僕はまるでマッサージ師のように咲菜の素敵な乳房を解していった。咲菜の乳首に触れると咲菜は微かに喘いだ。それは時計の針が動く時の音よりも、もっと繊細で小さな声だったけれど確かに喘いでいた。僕は彼女の乳首を口に含んだ、歯で甘噛みをしたり、咲菜がしてくれたように口でなぶったりした。すると、その声は少しずつ大きくなっていった。僕は咲菜のヴァギナに触れた。咲菜のクリを優しく弄った。そうすると咲菜は恥ずかしそうに顔を手で覆った。ヴァギナに指を挿入しながら、咲菜の手を避けてキスをした。これまでで1番深くて愛のあるキスをした。僕はぐしょぐしょに濡れた彼女のヴァギナから指を離すとほとんど同時に唇から口を離した。そうすると咲菜は少し物悲しげに笑い僕に「入れてくれる?」と言った。僕は咲菜の買ってきた黒い袋の中から箱を取り出し箱の中からコンドームを取り出しそれをつけた。咲菜は僕の首に腕を回した。僕は咲菜のヴァギナに向かって自分のペ二スを挿入した。咲菜は処女のようにきつくて中々入れずらかったし、実際のところ処女であった。僕は少し驚いたけれど、そんなことはなんでもなかった。

「私、実はファーストキスだったのよ。あれ」

咲菜は笑って言った。僕はもはや何があっても動じない自信があった。僕は咲菜に「ありがとう、とても嬉しいよ」と言った。「初めてだからゆっくり動くね」とも言った。 そして、こんな美人がなぜ今までキスさえもしてこなかったのか少し不思議に思った。そして、なぜ僕を選んだのかも疑問に思った。窓の外は真っ暗で街灯が微かに暗闇の底を照らしていた。

咲菜は少しずつ快感を感じるようになっていった。それと比例してピストンも徐々に速さを増していった。咲菜の喘ぎ声は本当に綺麗で録音して眠れない夜なんかに聞きたいと思ってしまうほどだった。僕は思わず咲菜を強く抱きしめる。肌をより密着させたままピストンを続ける。咲菜答えるように僕を抱きしめる。

「ねえ、私が、上になっ、てもいい?」

咲菜は襲いくる快楽の波に言葉を途切らせながら言った。僕は断る理由もなければむしろそれは良い提案のように思えたから、言われた通り正常位から騎乗位に変えた。咲菜の腰に手をやると咲菜はゆっくりと腕を握ってそのまま僕の手で首を握らせた。彼女はおもむろに腰を動かしながらとぎれとぎれに話し始める。

「ねえ、私ね、好きな人と、セックスしながら、最期を迎えたいの、わかるでしょ、あなたなら。きっと私ね、また、好きな人変わっちゃ、うと思うから、変わる前に、私と同じ、変わり者のあなたに、殺して、欲しいの」

あぁ、なるほどなと思った。咲菜が誰かの──僕以外のものになるなんて考えられなかった。

「そうだね、そうしようか。君はきっとこれから先生きていくのにとても不便そうだしね」

そう答えると咲菜は少し笑った。僕は力を加えていく、同様にピストンもはやくなっていく。咲菜のヴァギナはどんどんきつく締め付けてくる。僕は起き上がり体位を変え本格的に首を絞める、体を痙攣したようにびくつかせる。咲菜はなるべく抵抗せずにされど、やはり苦しいらしく足をばたつかせる。どんな感じなのだろうか、差し迫る死と覚えたての快楽、まだ僕のことを考える余裕はあるのだろうか。咲菜はだんだんと抵抗する力が弱まっていく。咲菜の動きが止まったところで僕は射精し、咲菜の呼吸は完全に止まった。咲菜の力のないヴァギナからペニスを取り出すと、ゴムの先には小さな穴が空いていた。

「そんなに、想っていたのか」

僕は咲菜の顔をみてもう一度キスをする。もう舌は動かないけど暖かみのある咲菜を抱いてしばらくの間はそのままじっとしていた。

咲菜の体から離れると僕は咲菜の台所からナイフを取り出し、咲菜の美しいお腹を切り開いた。僕はそこに頭を埋めると自分の首を、動脈の辺りを切った。僕は来世には君の子供に産まれたいと思った。咲菜は誰よりも孤独を知っていて、誰よりも子どもが好きな人だったから。薄れいく意識の中で僕は咲菜の事を考え、そして、咲菜の孤独について考えていた。咲菜、僕もそっちへ行けるかな?僕は咲菜とは違ってやっぱり地獄に落とされちゃうかな?

窓の外は朝焼けで染まっていた。街をあの日の夕焼けのように染めていた。それは僕らをなぐさめるように。僕らの愛を照らし出すように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛憎 Lie街 @keionrenmaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説