第44話 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ

「・・・キョーゴ君、ちょっと」


 俺は2時間目の西室にしむろ先生の現国の授業が終わった直後、しずかさんから呼び止められた。

 俺は静さんに導かれるまま廊下に行ったけど、静さんは「はーー」とため息をついた後に超がつく程真面目な顔になった。

「・・・キョーゴくーん、どうするのー?」

「ん?何の事について何をするの?」

「あっきれたー。ホントに何も感じないのー?」

 そう言うと静さんはもう1回ため息をついたけど、さすがの俺にも静さんが言いたい事は予想出来ている。

 今朝、俺の左には美園みその先輩が、俺の右には千歳ちとせさんが並ぶようにして登校したが、そのせいで周囲の連中から相当白い眼で見られたのは確かだ。この件で静さんは俺に色々と言いたい事があるのは間違いない・・・。

「・・・今朝の登校風景の件だろ?」

「・・・それが分かってるなら、わたしが言いたい事くらい分かるでしょ?」

「そんな事を言われてもさあ、俺だって迷惑してるんだぞ」

 そう言うと俺も「はーー」と短いため息をついたけど、俺だって二人に色々と文句を言いたいんだぞ、ったくー。

「・・・キョーゴくーん、あなた、相当数の男子を敵に回したわよー」

「マジ!?」

「だってさあ、誰がどう見ても修羅場でしょ?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!先輩はともかく、千歳さんは俺の妹だぞ!」

「誰がどう見てもよねー」

「うっ・・・ (・・; 」

「分かっていたんでしょ?」

「そ、それは・・・」

 そう、それは俺も思っていた。この学校の連中にとって、千歳さんは俺の双子の妹であって義理の妹ではない。本音を言えば迷惑この上ない行為でしかないけど、千歳さんが俺にベタベタ四六時中張り付いているという事は、誰が見てもにしか見えない筈だ。『千歳さんは義理の妹であり妹は千歳だ』と言っても信じる奴がいるとは思えないし、天北てんぽく先生との約束でもあるからトップシークレットだ。今は千歳さん=双子の妹で押し通すしかないのだから、静さんの指摘通り『ブラコン』のレッテルを貼られるのは時間の問題だとは薄々感じていた。

 つまり、俺は1年生ナンバー1女子を狙う男子生徒を『敵に回した』という静さんの指摘を否定できない。

 でも、正直に言うけど、まさか入学して1週間もたたないのに『ブラコン』だと周囲が見ているとは、いくら何でも早過ぎませんかあ!?

 それに・・・そうなると先輩は何故俺にこだわるんだ?たしかに昨日の件は中学の時の罰ゲームと捉える事が出来るけど、今朝の行動の意味は何だ?

 もしかして・・・いや、いくら何でも・・・

「・・・沈黙しているという事は、わたしの言ってる事が正しいと認めるのよね?」

「・・・・・」

「あの2年生が君の事をどう思ってるかは知らないけど、千歳ちゃん、ライバル意識むき出しとしか思えないわよ」

「静さーん、俺はどうすればいいのー?」

 俺は心底困っているから静さんに助け舟を求めたような物だが、静さんは右手の人差し指を立てて「チッチッチ」と顔の前で左右に揺らしながらニコッと微笑んだ。

「まあ、キョーゴ君が望めば解決策を教えてあげなくもないけどねー」

「ホント!」

「でも、その為にはことわざではないけど『しょうんとほっすればうまよ』ね」

「はあ!?」

「まあ、あの2年生もわたしと同じ事を考えてる筈よ」

「ますます意味不明なんですけどお・・・」

「そういう訳だから、もうちょっと待っててねー」

 そう言うと静さんは「じゃあねー」と言ってサッサと向こうへいってしまった。あ、あれ?

「ちょ、ちょっと静さーん」

 俺は静さんを呼び止めたけど、静さんは後ろを振り向いてニコッと微笑んで軽く右手を上げるだけで、そのまま向こうへ行ってしまい足を止めることはなかった。

 おいおい、人を連れ出しておいてそれはないだろー、はあああーーー・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の義妹は実の妹!・・・などという非現実を誰が信じますか? 黒猫ポチ @kuroneko-pochi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ