五.龍の眼の子
そうして今――天潤は、龍眼財閥にいる。
正確には財閥を構成するうちの一社である龍眼保安服務公司――略して龍安。
扉の傍に立つ女が、呪符を通じて会話した理凰。霊眼に映る彼女は、想像したとおりのけだるげな表情でくるくると髪をいじっている。
そして天潤の目の前に座る男が、龍安の社長――太乙天狼。
「……名前は香天潤。歳は十七歳。間違いないな?」
「は、はい」
手帳をめくりながらたずねる天狼に、天潤はおずおずとうなずく。
「出身は
天狼は顔も上げない。ただ淡々と語られ続けるその内容に、天潤は息を吞んだ。
「三月七日生まれ。本来は左利きだったが矯正されて右利きになった」
「ま、待ってください!」
誰にも言っていないはずの情報に、天潤は思わず椅子から立ち上がる。
「ど、どうしてそれを――!」
「全部、書いてある」
天狼は小さく鼻を鳴らすと、天潤の前に手帳を放った。
「
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
父親。自分には最も遠かったはずのその言葉に、天潤の思考は停止する。
「疑惑は前からあった」
硬直する天潤をよそに、天狼は相も変わらず淡々とした調子で語り続ける。
「十七年前……成州市長との会談の後から、あの男は密かにどこかに送金していた。血族の間で噂になったんだ、隠し子でもできたのか……と」
初め、それはただの噂に過ぎなかったという。
しかし、天潤の出現で事態は急変した。
「噂は真実だった。――錘蛇がお前への攻撃を拒否した時に、それが確定した」
その言葉で、天潤は思い出す。
天狼の話によると、錘蛇には太乙氏直系の子には攻撃しないよう呪いが施してあるらしい。
「正確には遺伝子検査を経なければならないが……この分だと確実だろう」
長い指をテーブルの上で組み合わせ、天狼は天潤を見上げた。
色違いの瞳が、冷やかに光る。
「お前は間違いなく太乙天元――龍眼財閥現総帥の子だ」
強烈なふらつきを感じて、天潤はテーブルに手をついた。
耳の奥で、ざあざあと自分の血が血管を巡る音が聞こえた。部屋中がぐらぐらと揺れているような錯覚を感じつつ、天潤は椅子に崩れ落ちた。
「私が……龍眼財閥の……?」
「そうだ。……そしておよそ五十年ぶりに生まれた、太乙氏直系の子だ」
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